1429 清次郎歌岬=奥尻郡奥尻町字湯浜(北海道)個人名が名前につく岬にはなにか物語もありそうだがこれがなにもない [岬めぐり]

人名がつく岬というのも、たまにあるのだが、その由来がちゃんと伝わっているものは、意外に少ないように思える。はっきりと個人名がついているのだから、架空の人物にしろ実在の人物にしろ、その名がついたいきさつなどは、当然に伝わっていてしかるべきだろう。だが、そう思うのは、ふらふらと寄ってくる知りたがり屋だけで、地元の人も地元民でもないたいていの人も、そんなことはどうでもいいことと考えているらしい。

ここの、“清次郎”さんという人は、いったいどういう人なんだろう。
そういう疑問は、自然に出てくるはずだが、どこにもなにも情報がない。奥尻町のパンフでもサイトでも、この岬についてはまったくちらっともふれず、完全に無視していて、マップにさえ載ってもいない。なにか、恨みでもあるのかと思うくらい徹底している。
だが、ここでは人名の後に“歌”という文字までくっついている。これで、なんにもいわれもへちまもありませんと言われても、とても納得はしがたい。そう思いませんか。まあ思っても、どうしようもないのだが…。(後でちゃんとつじつまが合う仕掛けになっています。お楽しみに)

清次郎歌岬は、クズレ岬の丘を降りて海岸に出たところの南にある。
岩ばかりの小さな尾根が西に突き出ていて、そこをバスが走る道路は鴨石トンネルでその岩の下をくぐり抜ける。

30〜40メートルほどしかないこの岩尾根は、北から見ると礫岩を多く含んでいるように見えるが、明らかに溶岩性のギザギザした岩肌を露出している。これが、横になっているガリバーのアタマのように見えるという説もあるようだが、バスからではそう見るにはちょっとムリがあった。
鴨石トンネルを出て、岬の南側に出る。

ゴツゴツした岬の先端部は、オーバーハングになっている。その下には横に層が刻まれていて、その右の出っ張りがなにやら丸く見える。ガスが抜けてはじけてできたような凹みも、大きいのや小さいのがたくさんある。

おや、その斜め上には、もうひと回り大きな円も見える。
どうやら、これも「車石」のようだ。

流れ出た溶岩の表面が水で急に冷却されるとき、チューブ状に流れ、それが切れて枕状になることがある。その断面は放射状の節理をもつのが特徴とされているが、その断面が表に現れたとき、その円形と放射状の形から、人々は車輪を連想し、ホイールストーン(車石)という呼び名が生まれた。

車石で代表的なものといえば、根室は花咲岬のそれであろう。それは、この岬めぐりでもかなり早い段階で取り上げていた。
その花咲岬の車石と、清次郎歌岬のそれは、少し車輪の形が異なるようだが、確かに円の周縁部には放射状に並んだ岩がはっきりとわかる。
ふたつとも、その中央部で車軸が折れた跡のような形状を示している。

わが国では「車石」には、もうひとつ別の意味があって、一部で使われている。それは牛車などが通る道に敷いた石のことで、轍の跡が刻まれているものを指す。大阪のおみやげによくいただいていた叶匠壽庵の菓子に、それを模した「車石」というのがある。
和菓子屋さんというのは、結構そういうところには眼をつけているらしい。鎌倉の鳩サブレーで修学旅行生にも人気の豊島屋では、石橋を模した「きざはし」というのもある。
この放射状の「車石」も、根室や奥尻の名物に使われてもよさそうだが、やはりそういうところまでいくには、いまいちいろんなところで力がないのか。

清次郎歌岬を後に南下すると、今度は海中に立岩を大きくしたような岩島が見えてくる。これが、神威岩であろう。その名は、地理院地図にも明記されている。

神威岩の周辺は岩礁が広がっていて、小さな岩頭がたくさん並んでいる。

岬と岩のツーショットで見るていると、なんとなく歌の上手な清次郎という少年と、その物語がひとつくらいはつくられそうな気がしてくるのだが…。

▼国土地理院 「地理院地図」
42度9分12.29秒 139度24分40.80秒




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