1417 黒崎=三方郡美浜町坂尻(福井県)道もなく人家もない岬その向こう常神半島の美浜町側もまた道も人家も岬もない [岬めぐり]

このシリーズだけでこれが3つ目になる黒崎は、美浜湾南岸のほぼ中央付近で北へ突き出た小山の先が、ちょっと東へ向いてしゃくれたところである。中央にあっても、美浜湾西側には行かない。したがって、この岬は菅浜や佐田のほうからしか見えない。

標高330メートルの天王山の塊から、北へ下りながら伸びていく岬の東西両側には、道もなく人家もない。天王山は、わずかに南東端の椿峠で県境の山々に接続しているが、ほとんど島のようで、その半分は湾に突き出ているが、残り半分は田畑や集落が広がる陸地に埋まっている。

美浜町の役場がある中心地は、この天王山の西側に開けた耳川の河川敷が陸地化したような平野にあるが、平野の際から山がいきなりぽこっと盛り上がって囲んでいる。
こういう地形は、讃岐平野に似ているが、ここらはさほど広くはないので平野とは言わないのだろう。ただ、この若狭湾沿岸一帯に共通しているこういう地形は、やはりリアス式のフィヨルドの名残りのようでもあり、その浅い部分が堆積によって陸地化していったものとみてもよいのだろう。
そして、陸地化せず海水が入り込んだまま周囲に山だけが残ってできたのが三方五湖、ということになるのではないだろうか。
美浜町の役場やJR小浜線の美浜駅がある平野の西端から始まる三方五湖は、久々子(くぐし)湖、日向(ひるが)湖、水月湖、菅湖、三方湖と続いている。

美浜町と若狭町の境界線は、気山付近からジグザグに複雑な線を描きながら、久々子湖の東北部と日向湖をまるまる美浜町側に取り込んでいる。
そして、レインボーラインの一部をなぞりながら北へ伸び、常神半島の背を若狭町と半分に分けながら、半島の北西常神岬で海に落ちている。この境界線の北東部分が全部美浜町なのだが、集落があり人がいるのは日向までで、その先は無人地帯である。
常神半島の西側、若狭町には海岸を道路が走り、集落も点在して先端まで至っているのに、東側の美浜町側には、なぜ人が住み着かなかったのだろうか。
それはとにかく、この半島の地形のためだろう。半島東側は断崖が続いていて平地がまったくと言っていいほどない。日向の先に3か所くらいは断崖が切れて小さな浜がある場所があるのだが、そこには西海岸にあるように小さくてもいいから川があればいいのだが、それがない。水がないから人は住めない。
人がいないから、岬もない。
岬がないから、でんでんむしもこの黒崎から北西の海岸へは行かなくてよい。黒崎も人も住まず道もないので、県道33号線を走るバスからの眺めのみとなった。そういうわけで美浜町の中心部は通り過ぎる。

次の岬は常神半島先端の常神岬となるのだが、そこへは若狭町営バスの三方線という路線バスに乗らなければならない。その始発バス停がどこにあるかというと、ふたつの町の境界線が走る気山付近の“レイクヒルズ”となっている。
近年、全国各地で同様のことが起こっている。それまでのバス会社が運行する路線が、どこも不採算部門となって撤退を余儀なくされ、住民の足がなくなり、通学も困難になる。それでは困るというので、自治体が補助金を出して赤字の補填をする条件で路線を存続させたり、コミュニティバスの運行という形で自治体自身がバス路線の運営に関わるようになった。
いまや、地方のバス路線といえば、コミュニティのほうが多いくらいであろう。
コミュニティバスにも大きくふたつあって、自治体が積極的に運営にタッチする場合と、地元のバス会社やタクシー会社と提携して委託する場合がある。
前者の例では「1350 箱崎=三豊市詫間町箱(香川県)まことに見上げた三豊市コミュニティバスが行くこの“箱”はあの「箱」のことなのだった」」の項で紹介した三豊市のように、市営バスとして徹底して本格的にかかわるのもあるが、多くは後者のような形で、この若狭町の三方線も町営バスではあるが、実際の運行はレインボー観光自動車が行なっている。

気山というのは、平日の昼間で1時間に1本走っているJR小浜線でいうと、美浜駅と三方駅の間にある駅名であり、久々子湖の南で舞鶴若狭自動車道でいうと若狭三方ICのある付近で、気山という山もある。その所在は、三方上中郡若狭町となる。

“レイクヒルズ”とは、新興の住宅団地かなにかかと思ってやってきたら、なんとそこは“レイクヒルズ美浜病院”という病院でありました。その下には福井県立美浜高校があって、境界線はその高校の校庭を縦断して、病院はまるまる若狭町域となっている。

そして、若狭町内である久々子湖の南西にあるふたつの丘には、美浜町の飛び地があるのだ。
ココらへんの境界線の複雑さといい、これはおもしろそうで、なにかあるはずだが…。なにもわからん。

バスはレイクヒルズから三方駅を経由して、三方湖と水月湖のほとりを北上していく。
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