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536 遠見崎・長崎=土佐清水市中浜(高知県)重要な脇役のことを知らない [岬めぐり]

 歴史には、多くの場合英雄や偉人や権力者の列伝でのみ語られることが多い、という弊害といってもいい問題がついて回る。そんななかにも、ごく普通の人間が、運命のいたずらのようにして、時代という大きな回り舞台に登場して、脇役としてひとときのスポットライトを浴びることがある。
 バスは、そういう人物のひとりの生まれ故郷の家並みの間を、下ったり登ったりしながら、通り過ぎて行く。
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 この小さな湾に面する集落を、抱え込むように延びているふたつの岬があり、そこへは断崖が続いている。北側の岬が遠見崎、そして南側の岬が長崎。
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 中浜という集落の狭い道を走るバスの車窓から、このふたつの岬が見え隠れする。
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 それを眺めながら、どうしても思いはその人のところへ飛んでいく。記念館的な施設も銅像も、この集落にはない。なにしろこんな場所では、誰もやってこないし、観光バスも入れないからムリもないが、施設はあしずり港に、銅像は足摺岬にあるのだ。
 それでも、同じ土佐清水市内だから、武市半平太の銅像が須崎市の横浪黒潮ラインにあるのに比べると、はるかにこっちのほうが妥当性があるようにも思える。
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 決して歴史の主役を張ったわけではないが、この人物のことは知ればなかなか魅力的なところがある。だが、その人のことはなぜか日本人にはあまり知られていないのだ。それは、岡田以蔵まで主人公にした司馬遼太郎が、彼のことをメインに書かなかったからだけではあるまい。
 むしろ、アメリカの方での評価が高いともいうが、こんなところにも、スターでなければ、主役でなければありがたがらないしさわがない、マスコミのつくる話題にはすぐ乗るが、そうでないものには興味を示さない、という日本人の悪い性向が根本にある。
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 1827(文政10)年にこの漁村で生まれた漁師の子は、14歳の時に漁に出たところ嵐にあって難破漂流するが、アメリカの捕鯨船に救助されて、日米交流の掛け橋となった最初の日本人となる。
 でんでんむしが、とくに興味をもつのは、捕鯨船に救助されるまで鳥島で5か月近くも無人島で生き長らえているということである。不屈の精神と思考力がなければ、とてもできないだろう。
 ほかにも、助けてくれた捕鯨船船長の故郷マサチューセッツで勉学に励んで高度な専門知識をみにつけていること、10年後に帰国したときには鹿児島や長崎で罪人同然の厳しい取り調べを受けたこと、さらには土佐でも吉田東洋の2か月以上にわたって尋問を受けるが、そうしたことにも冷静に耐えたことがある。帰国して2年後に幕府に召し出されてからは、航海学書や英会話の本の編集にあたるなど知的活動能力も発揮したが、なによりも自身の体験や見聞を当時のさまざま人に伝えることで、陰ながら歴史を動かした、ということもいえる。
 その意味で、非常に重要な役回りであった。それにしては、自身の手による記録をあまり残していないのは、なぜなのだろう。
 江戸に出たときに、生まれ故郷の名をとって、「中浜万次郎」と名乗ったジョン万次郎が、その人なのである。
 後には、東京大学になる前の開成学校では教授まで勤めた。しかし、波乱に満ち満ちた前半生とうって変わって、40代半ばにヨーロッパ視察から帰ってからの病を契機として、それ以後は後藤象二郎や岩崎弥太郎がのしあがっていくのと対照的に、71歳で亡くなるまですっかり表舞台から身を引いてひきこもってしまう。
 それが、日本人からほとんど忘れ去られたようになってしまう原因だったのだろうか。もっとも、教科書にも出てくるので、その名前くらいは知られている。だが、脇役はあくまで脇役。坂本龍馬を主人公とするドラマでは、通りすがりの通行人扱い程度でしかない。
 そんなことをあれこれ考えているうちに、バスは中浜、大浜、払川を過ぎ、海岸の断崖上につけられた細い道を登って行く。海は、うっそうとした木立の間にちらちらする程度で展望はないが、ときおり眼下に断崖の下が見える。
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 かねがね思うことだが、免許がないでんでんむしには、バスの運転手さんの技術には、プロの誇りが感じられることも多い。よくこんなところをすいすい走れるものだ…。

▼国土地理院 「地理院地図」
32度45分26.04秒 132度57分16.22秒 32度45分4.99秒 132度57分43.10秒
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dendenmushi.gif四国地方(2010/01/23 訪問)

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タグ:高知県
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