401 畑野崎=日高郡印南町大字印南(和歌山県)おもしろうてやがてかなしきかえる橋 [岬めぐり]
バスは海岸を離れた内陸部を多く走って南下するが、幸い御坊市名田町の野島から先には岬はない。次に岬が現われるのは、印南町に入ってからで、ソテツのようなヤシのような木がある海岸が見えてくる。
その先が畑野崎で、ぽっこりとここだけが丸く飛び出している。地図でみると、周囲のぐるりは荒磯で取り巻かれた岬の上は平らで、まっすぐな道が引かれているので、開拓地か住宅地かなにかのようだ。
この岬の付け根のあたりをバスが越えると、印南港が広がっている。
ここがバスの終点だと降ろされたところは、その港のそばの道路で、ここから駅まで行かなければならない。ここも、町の中心と駅のあるところがだいぶ離れている。
ちょっと前までは、このバスが南部(みなべ)まで行っていたはずだったが、それがここで打ち切りになっている。終点が、町の中心でも駅でもなく、港の道路脇であるのも、いかにも途中で打ち切りました、という感じである。
どこへ行くのか、バスがそのまま南に向かって走り去るのを見送ると、港から見る台地状の畑野崎をカメラと記憶に納める。こっちから見てもやはり逆光であるのは、冬の午後の陽が西に傾いてきたからか。最近では、逆光でもきれいに撮れるデジカメというのもあるそうだが…。
次の下り電車に間に合うように、駅まで少し歩かなくてはならない。
住宅が混みあって並ぶ町並みを行くが、その道は狭く、なるほどこれではバスは入れんわな。
印南川という川の右岸が町の中心で、駅は左岸にある。川を遡って歩いて行くと、上流方向になにやら見えてきた。
おっ! あれは…。
これ、テレビで見たことあるぞ〜う。これぞ、ユーメイな「かえる橋」だ。そうか、あれはここだったのか。
道には、こんなものも。
どうやら。この町のキーワードは「かえる」であるらしい。
鄙びた駅に着くと、その北側に川と線路を横切るようにして、かえる橋が架かっている。
一応は、町を東西に結ぶバイパスの役目は果たしているので、まるっきりの飾りではないこの橋が、なんでテレビに何度も映ったかというと、これが例の“ふるさと創生”の1億円の使い途(正しくは次項402参照)だったからである。
困ったときの人気取りで金をばらまくというのは、自民党の得意とするところで、今回の定額給付金も究極の選挙対策だが、1989年に竹下内閣が全国の市町村にもれなく1億円を配ったというのは、これもまことにユニークなばらまきで、そのおかげで全国あちこちに珍風景を生み出した。
使い途に困った市町村が、むりやりヘンテコなものをつくったからである。その一例として、この橋もたびたびテレビの画面に紹介された。(これも、「テレビがつくり流す情報を、そのまま受け取って取り込んでしまうと、間違ったイメージをもってしまう」という教訓である。)
はからずも、実際にその現物がある町にきて、取材のテレビクルーを住民はどんな思いで迎えたのだろうと、かえると向き合いながらでんでんむしは複雑な気持ちを抱えてしまった。
(追記:両陛下ご成婚50周年にからめて、今朝の朝日新聞の「天声人語」にある『でんでんむしのかなしみ』(新美南吉・原文はカタカナ)は、“でんでんむし”命名の由来のひとつでもある。)
33度48分34.10秒 135度12分30.81秒
近畿地方(2009/01/24 訪問)
拙者もけさ『天声人語』にいきなり貴殿のお名前がでてきたので驚いた次第。この童話もエピソードもなかなかええでんな。
さりながら──背中の大きな殻に「哀しみがいっぱいつまっている」かどうかは疑問千万。あるいはそれは愉しみやも知れぬ──この「岬めぐり」こそ「でんでんむしのたのしみ」と思われるでな。では御免。
by dotenoueno-okura (2009-04-10 11:27)
@新美南吉といえば『ごんぎつね』だけは知ってる、という人が多いのは、ある時期小学校の教科書に長いこと使われていたからなのですが、『でんでんむしのかなしみ』のほうは、あまり知られていなかったのです。
それが、美智子さんが国際会議にビデオ参加したときに(もう20年くらい前?)この本の話をされて有名になり、そのときに数冊の絵本も改めて出版されたりしました。
いやいや、かなしみもいっぱいあるし、たのしみもあります。
『喜びも悲しみも、立ち止まりはしない。ただ通り過ぎて行くだけ…』
by dendenmushi (2009-04-12 07:31)