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321 水垂鼻=七尾市石崎町(石川県)能登はやさしや土までも屏風の瀬戸に架かる大橋の上から [岬めぐり]

 岬の名前に想像をたくましくしてもせんないことが多いというのは、この水垂鼻の場合にも当てはまる。どこかから水でも湧いて、小さな滝のように垂れてでもいるのでそういう名がついたと、すぐに思ってしまいそうだし、順番を入れ替えれば鼻水垂になるなともっと卑近な連想までしてしまうが、見たところ川もないし、海水面以外にはどこにも水の気配さえない。
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 爼崎から少し東へ行くと、数軒の大きな旅館が並んでいる。和倉町が過密になって、新しい温泉旅館が東へはみ出してきたものと見える。その旅館の向こう側、海寄りには黄色っぽい岩山のような場所があり、重機が入っているので工事中かと思えば、どうやら採石場かなにからしい。ここは、その名も石崎町である。ここがちょうど水垂鼻の裏側にあたる。
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 暑い日で、流れる汗を頭にかぶったタオルで拭きながら歩いて近づいて行くと、どうも石切場のようにごろごろした雰囲気でもないようだ。
 それで思い出した。これは珪藻土の採掘場に違いない。
 ということは、爼崎もそうだったが、水垂鼻の岩のように見える壁も、これは岩ではなく珪藻土が泥岩化した塊なのであろう。それが能登の特産品のひとつであることは、前に能登に来て珠洲市を歩いていたときに、それを見たのでよく知っていた。因に、先回りして言えば、能登の観光ポスターなどによく登場する、珠洲市の軍艦島(見附島)も、同様である。
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 古代の植物性プランクトンの層が堆積してできた多孔質の珪藻土は、断熱性、遮音性、脱臭性など優れた特性があるため、さまざまな加工品を産み出した。
 そのなかで、代表的なわかりやすい物をあげれば、七輪がある。今ではもう旅館の宴会のテーブルに出てくる小さな物くらいしか、実際に目にすることがなくなってしまったが、昭和30年代頃まではどこの家にも必ずあって、煮炊き焼物に使われていた。今時分であれば、裏口の外に七輪を出して、その上でサンマをジュウジュウと焼いていたものだ。
 もともとは“七厘”分の炭で効率良く煮炊きができるというので“七厘”が正しいという説もあるが、“七厘”でも“七輪”でも、かな漢字変換するためには、“しちりん”と入力しなければ出てこない。だが、西日本で過ごしたでんでんむしの小さい頃の記憶では、これを“しちりん”と呼んだことはなく、“ひちりん”であった。念のため、“ひちりん”と入れてみても、変換はできない。
 地元には、「能登はやさしや土までも」というフレーズがあるらしい。
 確かにごつごつざらざらしたところのない珪藻土は、輪島塗にも使われるなどやさしい感じもするが、耐火断熱レンガなどの窯業素材としても使われて、戦後の経済復興にも一役かっているという硬派な面もある。
 それに、これは今回初めて知ったことだが、珪藻土を「Diatomite」という。それはA・ノーベルがニトログリセリンを吸収させ安定化させるために使ったのが多孔質な珪藻土で、できた爆薬にもその名がついたというのだ。
 なかなか、珪藻土はやさしいだけでもないらしい。
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 水垂鼻は、その姿を見るためには採掘場を避けて能登島大橋のほうに大きく回り込んで、橋の上まで行かないといけない。
 この調子で珪藻土をどんどん採取していくと、いずれは水垂鼻もなくなってしまうのだろうか

▼国土地理院 「地理院地図」
37度5分12.97秒 136度55分54.22秒
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dendenmushi.gif北越地方(2008/09/06 訪問)

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タグ:石川県
きた!みた!印(5)  コメント(2)  トラックバック(2) 
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きた!みた!印 5

コメント 2

knaito57

りっぱな壁面、こういう岬もめずらしいんじゃないですか。珪藻土は知っていたけれど、ここが本場とは知らなんだ。勉強になります。この壁面に「民芸七輪」とかの広告を出そうというスポンサーはいないんでしょうね。見る人がいないんだから。
拙者も幼少のみぎりは「ひちりん」でした。“ひ”と“し”は噺家が峻別していますが、江戸っ子というか下町では“し”でも、気取った郊外住宅層では“ひ”が多かったようです。長じて名古屋に出かけて質屋の看板が「ひち」となっているのに気づき、文化の相違を知ったものです。
命名の由来は「七尾と輪島出身の二人が創案」「タヒチから伝来」などとひねくることができても、七輪(七厘)と当て字する以上、正しいのはもちろん“し”ですな。『広辞苑』も日本語の標準化に益する一方で地方文化を斬り捨てているわけですね。
by knaito57 (2008-10-06 08:33) 

dendenmushi

@今日のもなかなかすばらしい壁面ですよ。これも珪藻土のなせるワザ。まったく、自然の造形には驚かされるばかりです。
 そうですね。「し」と「ひ」などは、多数決でいえば「ひ」のほうが多いんじゃないのかな。それなのに、辞書などが一方を排斥するのはおかしいことですね。

by dendenmushi (2008-10-08 08:21) 

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