625 羽黒崎＝五所川原市十三（青森県）津波と砂山としじみラーメンと

　羽黒崎という岬は、国土地理院では字地名としてのみ表記しているので、正確な意味での岬とは言えないかも知れない。だが、鯵ケ沢から七里長浜を経て北津軽までは、まったく岬がないので、これを飛ばしてしまうことになると、それも寂しい。

　長く続く砂洲のつくった陸地が、細く尖って終わるその先端が、羽黒崎と呼ばれていて、前潟に架かる橋には羽黒の名もついている。十三街道が通り、人家が密集する十三の中心地で、漁業基地でもある。主な水産物は“しじみ”で、漁協の看板にもそれらしい絵が描かれており、付近には“しじみラーメン”の看板もいくつか見える。

　実は、ここは前にも観光バスで通過したことがあって、そのときにその存在は確認していたので、今回はぜひ、しじみラーメンもいただきたい。別にラーメン通でもグルメでもないので、本来どうでもいいのだが、こういうところへくると、一応は定番を試してみるのも悪くはない。

　ちょうど羽黒崎の先端部分にある“元祖”の看板を掲げる一軒の店に入って、金千円なりの“特製しじみラーメン”を注文する。“特製”とそうでないのとどう違うのか念のために聞いてみたら、しじみの大きさが違うのだそうだ。
　店内には、誰のものだかわからないサインの色紙がいっぱい並んでいる。観光地にありがちな光景だが、なかにはサインの主の責任を問いたいようなことまであったりする。ここのはそんなことはなく、しじみとわかめの香りが、懐かしいラーメンであった。

　十三湖の景色は、どこか寂しい。岩木川や亀ヶ岡の隣を流れてきた山田川などが、広い沖積地をつくって湖面の半分を埋めている。東の遠くには蟹田との水を分ける5〜600メートルの山並みがあるが、あたりは視界が大きく開けている。汽水湖であるこの湖は、十三湖大橋で跨ぐ水道が、わずかな日本海への接続を保っている。
　その湖の開口部の南には、もうひとつ水路があって、これが七里長浜に沿って南に細長く延びる前潟となっている。この前潟がさらに後潟、明神沼と南へ続くのだが、昔の十三湖の日本海へつながる部分は、こちらのほうだったようだ。今では、その水路は閉じられ、五所川原市とつがる市の境界から北が幅1キロ足らずの長い砂嘴となって、十三湖を外洋と隔てている。

　この地形も、独特である。こういう地形は、波浪など自然の影響を受けやすいのが普通なので、長い間にさまざまに姿を変えてきたに違いない。
　しかし、それにしてはこの狭い砂洲の中に、中世からの都市の遺跡が残っているというのが不思議でもある。


　羽黒崎に日本海側は、前潟を遮る砂洲が展開し、青森県の進める地域開発の試みを示す掲示やら園地の整備をした痕跡らしいところが広がっている。


　その端の水道に接して、大きな石碑が立っている。それは「砂山の碑」だったが、われわれが知っているような砂山の歌ではなかった。
　「十三の砂山」は、この地に古くから伝わる民謡で、砂山祭りというイベントもあるらしい。ここへ来るまでまったく知らなかったのだが、YouTubeにはその歌がいろんな歌い手によっていくつも歌われていた。


　ハマナスの咲く岸から水路の向うにも、また大きな石碑が立っている。十三湖大橋を渡って、北側の岸を海の口まで行って見ると、北に大きく張り出した小泊岬を背景にした、巨大な碑は「津波之塔」であった。確かに碑を超える大きさのそれは、1983（昭和58）年の日本海中部地震による津波の犠牲者6名の鎮魂と「興国元年以来の歴史的惨事を後世にとどめ爾後不断の備えに心することを希って」当時の市浦村が建てたものだった。

　亀ヶ岡から弘南バスでひたすら十三街道を北上して、十三湖のほとりにでてしばらくすると、五所川原市十三になる。これが、ちょっと不思議に思える。今朝、五所川原を出て、つがる市に入って亀ヶ岡を歩いた。それから北へ十数キロも走ってきたのに、また五所川原市に戻ってしまった。
　つがる市と東隣の中泊町で隔てられた、十三湖の北側に五所川原市の大きな飛地になっているのだ。これもまた、町村合併の産物なのだ。

▼国土地理院　「地理院地図」
41度2分12.73秒 140度19分44.02秒

東北地方（2010/06/30　訪問）





にほんブログ村

タグ：青森県