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173 芹田岬=にかほ市芹田(秋田県)誰しも故郷があるいつの日にか歸らん [岬めぐり]

 今回は秋田までは秋田新幹線「こまち」でやってきたのだが、秋田県に入ると雄物川流域の田圃も見事だった。「こまち」は秋田のコメのブランドでもあるが、品種では日本全国コシヒカリだらけになってしまっているので、これは品名であろう。ササニシキなど他の品種はいささか押されていて、どうも旗色が悪い。こういうところが日本人の大変良くないところで、競って勝馬に乗ろうとして、なんでもかんでも一極集中にしてしまわないと気が済まないとする風潮は、なんとか是正しないといけない。多様性こそが文化であり、地方の名産・名品が、それぞれの特徴をもって成長することは、地域の活性化にも不可欠だが、最近相次いでこうした地方の名品の看板に、みずから泥を塗るようなことが多発している。
 「こまち」が秋田駅に着くと、多くの乗客が五能線乗換え口に殺到する。いま大人気の「リゾートしらかみ」に乗り換えるためらしいが、その広くない構内に人が群がってよけい大混雑している。どうやら、比内地鶏の弁当などを競って買い求めているのである。急がないでんでんむしはその混雑を尻目に乗換え口を避け、ゆっくりといったん改札を出て男鹿線に乗り換えてきたのだが、男鹿の岬めぐりを終えて、今度は羽越線を特急「いなほ」で南下するため、ふたたび秋田駅に戻ってみると、あれだけ混雑していた比内地鶏の弁当売り場は閑散としていた。今ならゆっくり買えるのだが、へそ曲がりは、こういうときにも素直になれないので、どうにも困ったものだ。
 伊勢名物のあんころもちにしたって、伊勢だけで売っているならまだ信用できるが、県外の遠く離れた駅の売店でなんで日もちのしないはずの伊勢名物を売らなければならんのだ。だいたいそもそもこれが、おかしい。そういうところまですぐに勘ぐるのがへそ曲がりの習性なのだが、こういうへそ曲がりの勘ぐりが次々当たっている。別にそれを自慢したいわけではなく、そんなことがここ何年も続いているということが、世の中のほうがどこかで間違っている証なのだ。
 特急「いなほ」で南下する羽越線は、青森と新潟の間を約7時間近くかけて走っている。この線も秋田=酒田間に乗るのは、今回が初体験だった。台風が接近しているというのに、この日は好天で、これまで見たことのないような色の日本海が広がっている。「いなほ」とはよく名付けたもので、秋田・山形・新潟とコメどころを縦断するが、次の岬は仁賀保の芹田岬までない。

 岬というもののない海岸線で連続していちばん長いのは、これまでの岬めぐりで確認したところでは、この男鹿=仁賀保間が約95キロである。ほんとうは、遠州灘に面した御前崎=伊良湖岬間が110キロ程度あるはずなのでこちらは二番目になりそうだが、遠州灘のほうはまだこの岬めぐりに登場していない。御前崎にも伊良湖岬にもすでに行ったのだが、古いFDかMOに入れたはずの写真が見当たらず、再訪しなければならないので、いまのところではここが“無岬最長距離”となる。
 仁賀保は「にかほ市」になっている。地図で見るとなだらかな海岸線にぽこんと肩いからせているこぶのように見えるのが芹田岬である。結構目立つ岬のように思えるが、タクシーの運転手さんに聞いてもすぐにわからない。地図を示してなんとか辿り着いたところは、小さな港のそばにある遠く風車の列を望む丘の墓地であった。

 その先の岬は、名前負けしそうな感じすらする。だが、これもいまなお波に削られ、陸地が細っているような様子さえ漂わせ、削り残された大きな岩だけが、いままさに陸から切り離され、やがて海中に取り残されようとしているようにも見える。その岩がおもしろくて、柱状節理を輪切りにしたような断面が見える。まるで人為的に固めたように見えるが、もちろん自然の造形である。
 それとても天然記念物でも世界遺産でもないから、タクシーの運転手が知らなくても無理はない。こんなところにやってくる他所者など、いるわけがないのだ。おじさんがいつのまにか自転車で忍び寄ってきて、うさんくさげにこちらの様子を窺っている。

 港のそばに立つなんだか場違いな歌碑があるので、これはなんだろうと調べていると、港にやって来た夫婦者のおばさんのほうが、こいつはいったいなにをしにやってきたのかという好奇心をおさえきれなかったらしい。挨拶すると寄って声をかけてきた。どこから来たのかというので東京からと答えると、それだけで納得したようだ。そこで今度はこちらから質問。「この歌碑はどなたのものですか?」。なんでも先生か何かしていたエライ人だそうだが、それ以上詳しくは知らないという。「大正五年 欽次郎」とだけあるその歌碑に刻まれた歌は、こういうものであった。

    幼き日 遊びし丘に しのびたり ちりぢりになる友 すでに亡き友
 エライ人にしては歌のほうはいまいちで、秀歌とは言い難い。しかしながら、その心根や気持ちは尊い。昔の文部省唱歌、いまでは叙情歌というらしいが、作詞:高野辰之・作曲:岡野貞一の名コンビが残してくれた歌は、この季節いっそう心にしみるものが多い。この碑をみていて、すぐに頭に浮かんだのは、そのひとつ『故郷』であった。その三番の歌詞にいわく。
    こころざしをはたして いつの日にか歸らん
    山はあをき故郷 水は清き故郷
 この歌は、この歌碑が立てられる二年前に発表されていた。この歌碑の歌を詠んだ人も、きっとそういうことだったのだろう。でんでんむしの個人的には、「いくとせ故郷来てみれば…」のほうがぴったりするのだが、人間誰しも故郷があるということは、貴重なことなのだ。
 鳥海山から、裾野を長く引っ張って、この岬のそばまで流れ込んできた川があった。その名も白雪川という。いい名前だ。どこにでもありそうでも、実際にこういう名前の川に遭遇するのは、初めてのような気がする。

 この辺りにしては新しくておしゃれなにかほ駅まで戻ると、いつものことながら列車のダイヤが都合よくない。そこで、象潟へ行くバスのほうが先に出る便があったので、それに乗ることにした。

 そうそう。忘れるとこだったが、ここ「にかほ」は、ご多分に漏れぬ広域合併で二年前に誕生した市だが、これでもTDKの工場や施設が、町の東側にいくつかあり、企業城下町の様相を呈しているようだ。そこにはでかいビジネスホテルもできている。駅がおしゃれモードになっているのは、そのせいもあるらしい。その駅の待合室でバスが来るのをまっていると、秋田のほうに下る列車に乗る人がぼつぼつ集まってくる。それがみんなスーツ姿の出張おじさんなのが、なんか懐かしくおかしかった。

▼国土地理院 「地理院地図」
39度17分17.23秒 139度55分42.43秒
173あしだみさき-73.jpg
dendenmushi.gif東北地方(2007/09/06 訪問)

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タグ:秋田県
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knaito57

一昨日の朝日新聞“声”欄に「列島縦断して歩道不備実感」という投書がありました。この人は山形県尾花沢市在住の60歳。この春、定年を機に「鹿児島の佐多岬から北海道宗谷岬までの日本海側約3千キロを、1日30キロを目標に3ヶ月かけて歩き」「安全な歩道の少ない車優先社会」をまのあたりにしたという。私も、杖突街道の体験から同感です。で、おタクとウチのブログが“大合併”したらこういう投稿がふえるんじゃないかと思った次第。
大声を出すことは老母にとって心身の健康法なんですが、「こころざしをはたしてえ」のところで一段とだみ声をはりあげるので、そのたび身が細る思いをします。
by knaito57 (2007-10-22 14:04) 

dendenmushi

@いやー、こういうおじさんやおばさん、これからますます大増殖することでしょうね、きっと。まあ、でんでんむしの岬めぐりも「独りよがり」という点において似たようなもんだが…。なんで日本海側なんでしょうかね。
 このコメントを読んで、緒形拳と津川雅彦という両おじさん巨頭が出た映画を思い出しました。おじさんが自転車に乗って、道路のカーブミラーを拭きながら日本を回る…というもので、皮肉たっぷりでおもしろい映画でした。
by dendenmushi (2007-10-23 06:54) 

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