1023 紅煙岬=根室市北浜町(北海道)われわれいちげんさんには「べにけむい」とはなかなか読めんですよね [岬めぐり]
ノッカマップ岬の風車のあるところから、南西方向に向かって遊覧バス「のさっぷ号」は走り続けている。7キロ弱も走ってくると、徐々に根室市街地の北の端に近づいていく。
途中には相変わらず放牧地らしいところも続くが、牛さんたちもそこいらじゅうにごろごろしているわけでもなく、やはり牧場らしい柵や建物のあるところにだけ固まっていた。
根室半島の南岸には、漁港や集落もあったので、道路も海岸近くに降りて走るところもあったが、これと対照的な北岸は、10メートルくらいの岩の岸が続き、わずかにところどころある岩の切れ目に、建物がひとつふたつある程度で、道路も総じて20メートルくらいの海から遠いところを走る。
この台地を掘り刻むように流れる川も、何本かあるが、小さな流れはそこだけ違う植生によって覆われ囲まれ、それと少し凹んだ地形によって、そこに川筋があるのがわかるだけである。
紅煙岬というのは、この辺ではめずらしく漢字の名前で、なにげなく「こうえんみさき」と読んでしまい、いったい“くれないのけむり”ってなんだろうと、あらぬほうへ考えがいってしまう。だが、それは違っていた。やはりアイヌ由来だったようだ。車窓からは見えないこのあたりの海岸が、もともと小石の多いところで、「ベニケムイ=小石のある湾」というアイヌ語の読みに、この漢字があてられてきたらしい。
ところが、ネット情報ではわざわざ「こうえんみさき」とふりがなをふってあるのが幅を利かせていている。これまた、間違いのほうが多数になればそれが正しいと強弁される例になってしまうのだろうか。
牧の内がやっと終わって、北浜町の紅煙岬が見えてくる…といいたいとろだが、現実は厳しい。一番川という川が背の高い草に埋もれていて、それが流れ出るところが、わずかに湾曲してその西で飛び出したカギ爪のような細い出っ張りが紅煙岬なのだが…。
500メートルくらい離れた岬までは、ほぼフラットだが、道のほうも高度がないので、その辺が岬らしい、ということしかわからない。
そこはもう、北浜町から琴平町と、根室港につながる市街地のはずれで、住宅地と緑の草原がくっきりと境をなしている。
その岬の広い土地のなかに、青い立て札が立っていた。株式会社兼由の社有地であることを誇示している看板は、わざわざ青字に白抜き文字というスタイルで目立つので、どういう会社か知りたくなる。
株式会社兼由は、根室市落石に本社があって水産物の加工販売を営み、東京築地と札幌に事務所をもつ160名規模の会社である。水産物加工のほかにも不動産賃貸やOA機器販売にも手を広げているらしいので、あるいはこの土地も不動産事業用地なのかもしれない。
人間の心理というのはおかしなもので、でんでんむしが東京は中央区月島に棲息していた頃には、かちどき橋を越えてよく歩きまわっていた築地六丁目にこの会社の事務所があるというだけで、あるいはその前を通っていたんだなと、それだけでなにか親しく思えてしまう。
この兼由の社有地が、将来どのように活かされ、紅煙岬の周囲がどのように変わっていくのか、注目してみたいような気にもなる。
北から市街地に入っていくと、遊覧バスはAコースで二つ目で最後の降車見学地である金刀比羅神社に向かう。そこはもう、根室港が目の下に見渡せるこんもりした小山で、この神社の祭礼は根室の重要な行事になっているようで、御輿などがみられるように展示してある。
金刀比羅神社は、いうまでもなく「石松代参」とか「こんぴらふねふね〜」とか海上交通の守り神とかで有名な、讃岐のこんぴらさんの系列である。6つしかない正式な分社ではないが、讃岐の金刀比羅を総本宮と仰ぐ。ここに金刀比羅宮を勧請したのはほかでもなく、漁業、海運など海事関係者が根室に集結していたからだろう。
讃岐の本宮に倣って、小ぶりな絵馬殿があり、そこに掲げられた絵馬のなかには、一枚帆の和船を描いたものがあった。う〜ん。いかにも、である。
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一、金刀此羅神社の創祀者である事
一、北方領土及び根室地方開拓の功労者である事
一、日露両国の紛争解決に挺身し、その修好に尽力した功労者である事
一、北方領土返還願いの標として
とある。
高田屋嘉兵衛といえば、司馬遼太郎『菜の花の沖』で広く知られるようになったと言えるが、菜の花咲く淡路島から遠く離れたこの地方で活躍していた。
鎖国政策のため外洋船の建造さえできなかった江戸時代、和船で国後島と択捉島を結ぶ方法を探すにあたって、国後の山に登って潮流を研究して、安全な航行が可能な迂回航路を発見したという。ゴローニン事件にもからみながら、趣意書にいうとおり、とにかく根室地方ではパイオニアといえる一人なのである。
▼国土地理院 電子国土ポータル(Web.NEXT)
平成25年10月30日「電子国土Web.NEXT」は「地理院地図」として正式公開されました。
43.355113, 145.598754
北海道地方(2013/09/06訪問)
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