1284 尾ノ崎＝鳳珠郡能登町字恋路（石川県）航路も鉄路も人の恋路も障害にはきりがなくたいていは…

　珠洲市の内浦海岸側の岬は、長手崎から以南以西にはひとつもない。鉢ヶ崎とか谷崎のような地名はあるのだが、大きく湾曲しながら南に延びた飯田湾岸には、蛸島の辨天島や鵜飼の見附島、それに恋路ヶ浜といった海岸で目立つところがないわけではないが、いずれも岬ではない。

　珠洲湾ではなく飯田湾と名がついているのは、珠洲市ができる前には今では市のひとつの町にすぎない飯田が、この付近の中心地であったためだろう。因みに、珠洲市の誕生は1954（昭和29）年で、珠洲郡の宝立町・飯田町・正院町と、上戸村・若山村・直村・蛸島村・三崎村・西海村の三町六村が合併して、石川県下では5番目の市となっている。前項で述べた“これというヘソがない”のには、頭抜けて大きい自治体がなかったという事情もあるのかもしれない。

　半島の東北で、南北に長いが浅い湾は、長手崎と赤崎の間がその範囲になるのだろう。飯田湾の真東は、新潟県の柏崎付近になる。

　珠洲総合病院から鵜飼を経由して内浦湾岸を南下するバスに乗り、ひたすら走ると、静かな海と内浦海岸独特の風景が展開する。平らな板を浮かべたような陸地の端は、長手崎の周辺にあたる。

　当然ながら、冬の季節風がひどいときも荒天のときもあろうが、この静かで穏やかな海を眺めていて、これに船で漕ぎ出そうと考える人は少なくなかったろう。70年代半ばから80年代始めにかけては、飯田港＝佐渡小木港・飯田港＝糸魚川市姫川港の間でカーフェーリ、飯田港＝富山港間には高速艇が走っていたこともあった。今はどれもない。前にはあった鉄路や航路、そしてバス路線がなくなっている…といったことは、全国にたくさんある。こうした公共交通機関だけに限っていえば、現在は昔よりも衰退しているとも言えそうだ。

　JR西日本の能登線が第3セクターに移管され、蛸島＝穴水間でのと鉄道が開業したのは、1988（昭和63）年のことであったが、2005（平成17）年になって、のと鉄道能登線（穴水＝蛸島）は廃線になった。

　鵜飼のバス停は、やはり建物が保存してあって駅名を掲げる旧のと鉄道の駅舎の前だった。鵜飼漁港の南には、能登観光のシンボルのひとつともなっている見附島がある。矢じりのような形をした島は周囲が断崖になっていて、かつては“軍艦島”と呼ばれていたはずだという記憶がある。

　ちょうど陸から見ると、軍艦の舳先が迫ってくるようにも見えるので、その名があったと思われるが、現在の地図や情報では見附島に統一されているらしい。長崎の軍艦島のほうが有名になったので、重複を避けた…なんてことはないよね。

　地図で見ると、軍艦の先まで近寄れるようにデッキのようなものが表示されていたが、バスからは遠くなるので、島があることなんか繋がっているくらいしかわからない。

　長手崎の次の岬は尾ノ崎で、ここはもう珠洲市ではなく鳳珠郡能登町となる。見附島からは3.2キロの出っ張りは、温泉などもあるらしいが、北側からではよく見えない。

　尾ノ崎の手前にあるのが恋路海岸で、ここも有名な観光名所であるらしい。潮が引けば陸繋になる弁天島という鳥居のある小島と岩礁が散らばる海岸は、立岩と砂浜と煉瓦を敷き詰めた遊歩道などからなる。

　結ばれることのなかった悲恋伝説がここに伝わるのを最大限利用して、命名と観光ポイント化の努力が続けれてきたようだ。通りすがりにも、恋人たち二人が並んで座る銅像が浜に立っているのがわかった。

　ドラマになり歌も二つもできたが、どうもあまりヒットはしなかったらしい。恋人たちがやってきては用意された鐘を鳴らすという、お決まりの演出がされてはいるし、見附島から恋路海岸までの海岸線は、「えんむすビーチ」と言われているとか言うのだが、それもどうなんかねぇ。

　恋路海岸のすぐ南が、尾ノ崎のある出っ張りだが、ここも先端が分かれていて、バスの車窓からは建物も建て込んでいて北側の一部がわかる程度だ。

　松波でバスを降りて、漁港まで歩いて行く。この頃には、雨も完全にやんで、陽も差し始めた。

　漁港の北の防波堤に立って、北の尾ノ崎を眺めると、ちょうどその先に白い垂直に切り立った岸壁の、見附島の横っ腹がすぐそこにあるように見えていた。垂直じゃねぇ？　これ横から見ているので前から見るとほぼ垂直のはずなんです。

▼国土地理院　「地理院地図」
37度22分4.58秒 137度14分42.03秒

北越地方（2015/09/13　訪問）

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