1280 シャク崎＝珠洲市折戸町（石川県）その名も“岬自然歩道”というのがあったのでまたよけいなことを考えてみた

　70メートルくらいの崖とその先には岩島をともなうシャク崎は、海岸を回る道がなく、県道は岬の付け根を短いトンネルで通り抜ける。したがって、その岬の様子が眺められるのは、主に県道が折戸町の集落の海岸まで降りてきたときである。

　堂ガ崎から登り始めた県道は、木ノ浦（バス停名は「の」だが、地理院地図では「ノ」）まで一気に登り詰めると、そこからは海岸を離れた高いところを走っているので、シャク崎も西側からはほとんど展望が望めないのだ。

　木ノ浦集落も小さな入江に小さな堤防があるだけで浜もなく、民家はみな山の上のほうに展開しているようだ。ここには宿泊施設もあるらしいのだが、計画段階で脈がないことがわかった。それも、多くはほとんど存在証明のようなバスダイヤの関係である。

　が、日に一本でも二本でもバスが走っていることのありがたさを、しみじみと感じさせてくれる路線でもある。

　折戸町の木ノ浦からシャク崎にかけてと、狼煙町の禄剛崎の西側一帯には、地理院地図にはその名も“岬自然歩道”という表記のある道が、破線で描かれている。

　近年流行のウォーキング大会なども開催されている、結構有名な道であるらしく、観光案内のサイトにも登場する。同じく近年いろいろある“なんとか選”でも、“美しい日本の歩きたくなるみち500選”にも選ばれたという。珠洲市の観光協会が主催する“岬自然歩道を歩こう大会”は、2015年には34回を数えるほどで、参加者も300人を超えるというのだ。つい先頃にも、参加者のマナーが問題となって中止に追い込まれた大会もあると、新聞が伝えていたが、ウォーキングに参加しようという人のマナーが問われるなんて…。

　なんかヘンな気がした。花や鳥や自然を愛する人や、山登りをするような人でも同じようなことがある。非常識な人がやたら増えている、そういう人がどこへでも出かけて行く、そういう時代なのだろう。

　木ノ浦から狼煙までの約8キロのコースは、岩場、砂浜、自然林と変化に富んでいるようだが、バスの旅ではちょっと降りてその一部でも歩いてみようということができない。

　それがシャクだね。

　ただ、このコースで名のある岬は、シャク崎と禄剛崎のふたつしかない。だから、この“岬自然歩道”でいう“岬”というのは、木ノ浦と洲崎と川浦でちょっと飛び出している無名の出っ張りをも意識しての命名であろうと思われる。

　考えてみれば、一般に普通の人が岬を意識しているとは思えない。だが、人々が空想で風景を描くとすれば、それがよほど山の中でなければ、たいていは海を描こうとする。海を描こうとすれば、必ず陸地を描かなければならない。

　そして、その陸地は多くの場合、まぎれもない“岬”の形で描かれることになるだろう。

　名があるとないとにかかわらず、「岬めぐり」を趣味としているいないにかかわらず、われわれは常に自分たちが生きる陸地、暮らす大地の代名詞として岬を（岬の形を）意識しているはずなのだ。

　この付近では少ない砂浜の海岸が弓なりになる折戸に降りてきた県道は、防波堤に沿って東へ進む。

　折戸漁港の防波堤には、なにやら青いテントのようなものがあったが、あれはなんだったのだろう。泊まり込みで釣りをするには、もう寒いだろうが…。

　この丸い出っ張りと沖合いに散らばる広い岩礁地帯を利用した漁港も、正式には狼煙漁港の一部となるようだが、その出っ張り付近に洲崎の字名が残っているところをみると、ここもかつてはそう呼ばれる岬があったのかも知れない。

　それが、港と集落の発達にともなって、岬名が字名に置き換わっていったとも考えられる。

　洲崎から川浦の峠を越えると、県道は自然歩道のある北の海側を50メートルくらいの細長く続く丘陵と、南の山側との間を流れる川沿いに、狼煙町のバスの終点に向かう。

▼国土地理院　「地理院地図」
37度31分59.16秒 137度16分33.00秒

北越地方（2015/09/13　訪問）

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