番外:柏崎刈羽原子力発電所のなかの境界線=柏崎市大字大湊・刈羽郡刈羽村大字刈羽(新潟県)あと150メートルなのに… [岬めぐり]
椎谷の峠から南西方向には、柏崎市の海岸線がゆるい弓なりになって続いている。雨にけぶる数本の煙突は、東電の柏崎刈羽原子力発電所であり、いちばん遠くの岬は米山の聖ヶ鼻である。
ここからそこまでは直線距離で24キロ先になり、合併で大幅に増えた柏崎市の海岸線は、観音岬の北東の出雲崎町との境界線から、聖ヶ鼻の南西にある上越市との境界線まで、おおよそ35.5キロにおよぶ。
柏崎市は1940(昭和15)年に市制を施行して以来、周辺の町村を合併して市域を拡大してきたが、1989(平成元)年の中頸城郡柿崎町の一部編入と、2005(平成17)年の刈羽郡西山町・高柳町編入によって、この長い海岸線を市域に取り込んだ、その結果である。
おもしろいというか不思議なのは、柏崎市と刈羽(かりわ)村の原発のところの境界線である。刈羽村には海岸線がない。だから、原発の漁協補償協定も柏崎・出雲崎漁協とだけで行なわれている。
原発敷地の北側の一角だけ刈羽村が食い込んでいるが、海岸まで達しないところで線引きされているので、海岸線は全部柏崎市なのだ。いちばん北端の狭いところでは、刈羽村の境界線から波打ち際まで、わずか150メートル(地図としてはまるで信用ならないMapionでは50メートル)しかないのである。その、海に届きそうで届かない刈羽村の境界線は、800メートルにわたってある。
これは不思議だ。しかも、ここのところの境界線は直線(線が細かくぶるっているのは、久し振りにフリーハンドで線を引いてみたからで、境界線は直線)で角々と区切られている。アフリカの地図を見ればよくわかるが、列強が植民地化競争で引いた国境線は長ーい直線である。境界線が直線という場合は、きわめて政治的要素が大きく働いているとみてよいのだが、刈羽村のこの境界線も、いかにもなにかありそうでにおう。
普通は山や川など、自然地形から生じる境界線が、歴史的なできごとや住民のいざこざなどによって曲がったりくねったりするもので、直線というのはとくに日本では北海道以外ではあまり考えにくい。
普通は山や川など、自然地形から生じる境界線が、歴史的なできごとや住民のいざこざなどによって曲がったりくねったりするもので、直線というのはとくに日本では北海道以外ではあまり考えにくい。
では、どういうことがあったのか? そのいわれについてはどこにも明確な説明がないようだ。割とこういうどうでもいいようなことにも触れるのも好きそうなWikipediaにしても、「なお、柏崎刈羽原子力発電所が海の程近くに存在するが、実際には海岸部分だけが柏崎市に属する形になっており、刈羽村に海岸線はない。」とは書いているが、どうしてかの説明はない。それでも、そこにちゃんと気がついて言及しているだけ立派、ということにしておこう。
でんでんむし得意の憶測をめぐらしてみると、可能性としてはおよそ次のようなことが考えられる。
A 元は刈羽村にも海岸線があったが、地盤の隆起などで海岸線が後退した。
B 誰も知らない歴史的なある事情によって、昔からこういう境界線だった。
C 原発の誘致用地設定にあたって、なんらかの理由で刈羽村を所在の関係自治体に加える必要があって、線引きをしなおした。
このうち、Aは境界線が走っているところが山の斜面に当たるので、あったとしても有史以前のことだろう。もしBなら、どこにも記録がなく誰も触れないということは、まずあり得ない。
とすると、いちばん可能性がありそうなのはCということになる。
まあ、でんでんむしもこれしきのことでは夜も眠られなくなったりはしないが、誰もがそれを気にもせず不思議に思わないとしたら、そのほうがよりいっそう不思議だ。
なんだ、ソンなことも知らないのか、という方がおられれば、ぜひともお教えを乞いたいものだ。
一時期は世界最大規模といわれた柏崎刈羽原子力発電所の、敷地の北側約4分の1が刈羽村だが、そのほとんどは山林で、中枢に当たるらしい建物の一部が村のエリアにちょっとだけかかっている。その他の残り4分の3(もちろん海岸部は全部)が、柏崎市となる。
前回往復したときには、この原発を避けるように大きく迂回する道路をバスは走っていたが、今回は違うルートで刈羽村の中心部を抜けて柏崎駅へ向かっていた。このバス路線も、椎谷岬トンネルが開通してから後にできたものだろう。
「水球のまち」というこれもちょっと不思議な掲示を掲げた柏崎駅の前がバスの終点。柏崎に降りるのは二度目だが、泊まるのは初めて。これも前回にはまだなかった、バスにも窓があるというビジネスとしては斬新な、しかし朝食の内容はいまいちという、部屋からは米山さんが望める駅前のホテルに泊まった。
でも、奥の細道の帰路で芭蕉さんが対応が気に食わんとヘソを曲げて雨の中に飛び出していった柏崎で、一夜の宿を借りることができて幸いでありましたよ。名物タイ茶漬けもいただきましたし…。雨も上がりましたし…。
▼国土地理院 「地理院地図」
37度26分20.96秒 138度36分4.00秒
北越地方(2015/07/01 訪問)
タグ:新潟県
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