1157 チカプノツ岬=紋別市北浜町3丁目3(北海道)緩い丸いコンクリート護岸のふくらみにこの名があるが… [岬めぐり]
紋別に入る道で、大きなトラクターのようなものを載せた車両がのろのろと走っていて、その後ろについた白い乗用車がバックライトを点滅させながらゆっくりくっついていく。後から来る車に、追い越しを促しているらしい。
追い越しざまにバスの窓から見ると、それには幅広の黒いベルトのようなものがついていたから、おそらくは牧草を刈り取ってペールにする目的の車両なのだろう。道路は自走できないので、伴走車つきで運ばなければならないのか。
この道では、ほかにも同様な場面に出くわした。冬に備えて、牧草刈りも忙しいのだろうか。
チカプノツ岬は、紋別市街地の北の外れになる渚滑(しょこつ)町の隣、北浜町にある。オムサロの原生花園もあり、かつてはやはり渚滑線という支線も北見滝ノ上まで走っていた渚滑からは、国道273号線が分岐する。渚滑川がそれと並行して山に入っているのだが、滝ノ上というだけあって渓谷美もあり、「ショ・コッ」というアイヌ語には滝壺の意味があるるらしい。
現在では、渚滑から紋別市街を迂回するバイパスも通っていて国道238号線の名もそっちに移っているが、バス路線はもちろん海岸寄りの旧国道を行く。
それでなければ、ただでさえ少ない乗客を拾えない。日曜日の早朝、ぼつぼつと乗ってくる人もある。北浜3丁目のバス停で降りると、なんの用があってこんなところで降りるんだろうという視線が、バスの乗客から飛んできたような気がしたが、それは自分自身の心の声であったようだ。
住宅街とも言えないし工場地帯とも言えない、倉庫のような人の気配もない静まり返った家並みが続く間を、ひたすら海岸をめざしていくのだが、この環境でほんとに岬なんかあるんだろうか。
地図でみる限りでも、ある程度予想はできたのではあるが、やはりここはコンクリート護岸だけの、名前だけの岬であった。
まだ白さを残した護岸が、緩く丸くカーブしていて、海側の裾にはテトラポッドも置かれていて、その際まで波が寄せている。陸地のほうは、倉庫や空地などが護岸のそばまで続いている。
カーブに従って進むと、遠くに沙留の岬と市街地が望める。この場所に、チカプノツ岬という立派な岬の名(ただしアイヌ語源の情報は不明)が残っているのはなぜだろう。
もちろん、昔から今のような姿ではなかったはずなので、ずっと昔にはもっとちゃんとした岬らしい自然地形が、ここにはあったのだろう。
市街化が進み、かつての自然地形が埋立てや港湾工事などによって消えていくことは、全国どこでもよくある。それ自体は特殊なことでもないのだが、岬の名前が残るか、それとも残るかは、まことに微妙なところがあるらしい。
残っているか残っていないかは、どこで判断できるか。それはまず、①その名が地図(地理院地図)に残っている、②あるいは地図では消えたが地元の人びとの間では呼名として使われている、③字地名やバス停や施設の名として残っている、といったケースが考えられる。
この岬めぐりでは、原則として①の岬のみを取りあげることにしているが、それはそれ以外に岬の存在を確定できる材料がないからである。
そして、ここチカプノツ岬はまぎれもなく①の岬なのである。しかし、現状は単なるコンクリート護岸のカーブであるに過ぎない。
では、今度は岬が岬でなくなったときに、その名はいつ消えるのかという問題が残るわけである。草木が生え自然地形が残っていなくとも、コンクリートでも岬とするのかどうか…。
ここの場合は、こんもりとした丸い出っ張りはそのままなので、今の状態のままで、これから先もずっとチカプノツ岬としての表記を残すのだろうか。これまた、なかなかに悩ましい。おそらく、国土地理院にも明確な指針や基準はないのだろうと想像される。
▼国土地理院 「地理院地図」
44.370507, 143.348777
北海道地方(2014/09/28訪問)
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