番外:椎崎温泉=佐渡市原黒(新潟県)“朱鷺の舞湯”でトキ色の夕空トキ色の湖面そしてトキ色の月も… [番外]

「椎崎」の地名については、「1097 樹崎」の項でふれていたが、椎崎温泉の所在地は、住居表示では「原黒(はらくろ)」となる。ところが、泊まった“佐渡グリーンホテルきらく”では、自分の住所を「新潟県佐渡市しいざき温泉」としている。“原黒”は“腹黒”みたいで嫌ったのか。

加茂湖を見渡す丘の上の椎崎温泉にはほかにも温泉ホテルがあるが、そちらは「原黒」を使っている。バス停には「原黒」はなく、「椎崎温泉前」となっている。ほかに「原黒」を名乗るところはなく、保育園も「椎崎保育園」で「原黒保育園」ではない。
「原黒」も両津市と言っていた頃からの地名表記ではあるのだが、やはりその新表示のためになくなってしまった旧字地名にも未練があるらしい佐渡市では、その標識を全島くまなく立てることにしたらしい。「ここは 椎崎です」いいねえ、この標識。だいぶ汚れているけど。

もう“新”ともいえない住居表示への反省と揺り戻しが、この島でも起きていた。大雑把にまとめてしまう現在の住居表示と違って、佐渡市のこのきめ細かな旧字地名の標識は、島を歩いていてずいぶん助けられ、一人とぼとぼ(一人で歩くということはなんか自然にそういう感じになってしまうのが情けないけど)歩く身を勇気づけてくれた。

椎崎の丘の上には、温泉ホテルのほかに椎崎諏訪神社があった。由緒ある神社らしく、また佐渡らしく、社殿の前の広場には能舞台が置かれていた。

新潟県の有形民俗文化財に指定されているこの舞台は現役で、5月から10月の毎月一回の薪能が開催されているという。

能舞台の手前には、“グリーンホテルきらく”の露天風呂がある。露天風呂といっても、ちゃんと建物があり、屋根があるのだが、加茂湖を見ながら入るこじんまりした個室形式の温泉も気持ちよかった。

この温泉が宿の自慢らしく、“朱鷺の舞湯”という名が付けられている。鹿が入っていた、猿が浸かっていたといった温泉も各地にあるが、さすがに佐渡ではトキときた。

説明によると、なんでも金北山の連峰を回峰修行中の行者(木食上人?)が、この椎崎の森で傷ついたトキが湧き出る泉に浸かっていて、やがて舞い上がっていったのを見て、温泉がわかったのだという。
これらは温泉にはくをつけるための伝説に過ぎないのだろうが、越の湖と言われた加茂湖畔の椎崎には、“夕映えの松”と称された三本松があったと、その伝説は語る。そして、その松はトキの巣造りをするところでもあったのだ。
かつては日本の空をトキ色に染めたと言われるくらいたくさんいたトキの、絶滅寸前からの復活の努力とその物語は、現在も継続中である。その様子はトキドキ全国ニュースで報じられる。

夕映えの三本松が今も健在なのかどうかは、確認し忘れたが、ホテルの部屋から加茂湖の向こうの山に夕日が沈むと、空も湖面もトキ色に染まっていく。
そして、夜になると椎崎の対岸、樹崎の空にトキ色の月が上って、加茂湖と椎崎を明るく照らしだした。


さて、番外から番内に戻ると次は「1103 鴻ノ瀬鼻」になるのだが、翌日は椎崎温泉前から南線の佐和田行きに乗って、まずは真野新町まで行く。佐渡島の中央平坦部を北東から南西に向けて移動し、西海岸に出るわけだ。
そこから赤泊線に乗り換えて、今度は南東へ向いて山越えで、再び東海岸の前浜に出る。
そして、前泊線に乗り換えて北東に向かって多田まで戻り、そこから歩いてやっと鴻ノ瀬鼻につなぐ…。

そういうややこしいルートになってしまった。
▼国土地理院 「地理院地図」
38.068776, 138.440344




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