959 海驢立鼻＝新島村式根島（東京都）アシカが立っていた岬付近にはまったく人の気配も感じられないが…

　「驢」は「ろば」である。海のロバは「海驢」（アシカ）になる。アシカは、水族館のショーなどでもおなじみだが、オットセイと見分けるポイントは、大きさがオットセイのほうがひとまわり小さいのと、色が黒っぽいところなどが見た目違うのだろう。どちらも、いつもそこらにいるというわけではない分だけむずかしい。

　ところが、そこらにアシカがいた時代もあった。式根島の最西端にあたる岬には、海驢立鼻（あしかんだちばな）という名前がついている。

　アシカの名が岬についているということは、きっとこの付近にごろごろしていた時期もあったとのだろうと、素直に考えたほうがよい。

　昔は、日本近海にはニホンアシカが多く棲息していたようなので、ここらにいてもおかしくないのだ。とくに、日本海の竹島では、ニホンアシカに関する記録が多く残っているが、乱獲など人間の仕業によって姿を消した。神津島の南西40キロ付近にある銭州という岩礁は、漁師が行けば「銭になる」といわれたことからその名がある好漁場で、現在でも釣りやダイビングのポイントとして有名らしいが、そこでも明治大正の頃まではアシカ猟が行なわれていたという。

　1991（平成3）年には、当時の環境庁が「レッドデータブック」に「絶滅種」として掲載したが、現在ではニホンアシカは、環境省のレッドリストでは「絶滅危惧種」となっている。

　つい近頃にも、ニホンカワウソの例で知られたように、最終目撃例から50年が経過すると、「絶滅」リストに入れられることになっている。ニホンアシカについては、1970年代中頃に目撃したという記録が確認されたので、「絶滅種」から「絶滅危惧種」に変更されたものだ。

　日本では「トド岩」とか、トドの記録も多い。「海驢」と書いて「トド」と読ませる例もあるようだが、それもニホンアシカがトドと混同されていた例証のひとつらしい。

　式根島は海から見ると平べったいが、空から見るとでこぼこが多い島である。とくに南側の海岸線は、北側よりもさらにでこぼこが多く、たくさんの根が飛び出している。島の周囲はほとんどが岩磯と断崖で囲まれていて、砂浜はわずかしかない。

　人が住んでいる場所は、島の東側半分で、北の野伏港から南の式根島港の間に集落が寄っている。島の西側は地図では破線の道があるだけで、どうなっているのか不明だ。（だが、どう考えてみてもバーやガソリンスタンドがあるようには思えない。）

　こんな小さな島にも、温泉がふたつもある。そのひとつの足付温泉は、足をケガしたアシカが浸かっていたことからその名がついたというし、湾や岩根にはアシカの穴といわれる場所などがある。高さ70メートルもある西の断崖は、まったく人を寄せつけないが、もうアシカの姿はなくなって久しい、というわけだ。

　「海驢」が「立」つというのは、コロニーには見張りの役目をおったアシカがいて、それが起き上がって周囲を見渡している、そんな光景からついたものだろうか。

　島の最高点（109メートル）がある海驢立鼻付近には、地形図では大小の丸がいくつも描かれている。それを眺めていると、この岬の上にも立ってみたいような気がしてくる。

　前にも書いたことがあるが、大手情報サイトがやたらに展開している、“無意味な中身のないページをどんどん増やしていく（自動的に？チェックなしで？）”、という姿勢は改めるべきではないだろうか。

　「海驢立鼻」で検索をかけると、まずはじめのほうにぞろぞろ出てくるのがこういった項目である。辞書や地図はまだいいとしても、まったくクチコミや写真など情報がない情報ばかりである。項目だけつくっておいて誰かの投稿による情報提供を待つ、という意図もわからんではないが、やはり情報があってから出すべきだろう。最初は、こんなところまでガソリンスタンドもバーもホテル検索もあるまいに、と笑っていたのだが、ネット情報というものを考えるうちにだんだん腹立たしくなってきたりして…。

　

　　海驢立鼻の英語・英訳 - 英和辞典・和英辞典 Weblio辞書

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関東地方（2013/03/23〜24訪問）

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