番外:地層切断面=大島町野増(東京都)ジオパークは日本列島の断面をどう切り取って魅せることができるか [番外]
鎌倉近辺には「切り通し」という地形的な特徴を示す名称もあちこちにあるが、「地層切断面」といういわば地学的な用語が、バス停の名前になっている場所は、日本中でここだけかも知れないね。
島内を周回している都道208号線が、島の南西部を通るとき、道路の山側に、なにしろ長さ800メートルに渡って続くので、イヤでも目に入ってくるのがこの景色である。ここは、明らかに道路工事でできた副産物のような崖だが、市街地だとこういう崖はすぐにコンクリートで覆ってしまう。幸いここは周囲には人家ひとつないところで、そのまま残され大島ジオパークを標榜するこの島にとってはポイントのひとつになっている。
というのも、この地層がそのまま伊豆大島の火山噴火史の編年表のようなものだからである。
約1万5000年の昔から、100年ないし150年周期で大噴火を繰り返してきた大島では、その度に火山灰や岩砕などの噴出物が降り積もり、何重にも層を成して積み重ねられ、このような縞模様をつくってきた。
ここの地層がおもしろいのは、噴火と噴火の間に腐植土が堆積して、その層から植物が線上に生えているなど、積み重なった層がそのまま切り取られていることと、噴火で堆積した荒い岩砕の層だけ風化して凹んでいることなどだろうか。
それと、一見すると褶曲のようにみえる曲線も、そのまま元の起伏のある地形上に堆積が重なっていったものであるという。
学校の遠足かなにかで、こうした地層を見に行ったという経験と記憶は誰にでもあるはずだが、まずたいていの人はさして興味もなく、そのこと自体も忘れてしまっているだろう。また、興味はあったとしてもそれをうまく導いてくれるものがなければ、そのまま興味は置いてけぼりになる。
後者のでんでんむしは、こうした地層や化石などから、遠い時空のかなたに思いをはせるのが好きなのだが、常々感じていることは、専門的な研究とシロウト一般人の興味の間には、深くて大きな谷間というか大地溝帯のような溝があることで、それを的確に埋めてくれる情報や手段が少ない、ということであった。
その意味でも、2004年からユネスコの後押しによって始まった、世界ジオパークネットワークの発足と活動には期待もあった。
必ずしも“観光”や“経済効果”に直結しないこともあって、「世界遺産」ほどの盛り上がりには欠けるが、現在世界中では約90か所ほどが加盟し、「世界ジオパーク」の認証を受けている。
不思議なことはどこにもあるもので、このなかには北アメリカとアフリカがひとつもない。例によってアメリカがときおりみせる一国主義や妙ないいがかりとけちくささによるものなのかどうか、その理由は明らかでない。
アメリカのことはとりあえず放っておいて、このうち日本では次の4か所が加盟し認証されている。
洞爺湖有珠山/糸魚川/島原半島/山陰海岸/室戸
これだけ? 大島がないじゃない?
これは世界ジオパークネットワークの認証を受けているところで、それとは別に日本ジオパークネットワークに加盟するジオパークがある。日本ジオパーク委員会が認定している地域は国内25か所もあって、このなかに伊豆大島も含まれているのだ。
ついでだから、「世界ジオパーク」を含む日本の25地域をざっと眺めてみると、以下のようになっている。
白滝/アポイ岳/洞爺湖有珠山/男鹿半島・大潟/磐梯山/茨城県北/糸魚川/下仁田/秩父/伊豆大島/白山手取川/恐竜渓谷ふくい勝山/南アルプス(中央構造線エリア)/山陰海岸/隠岐/室戸/島原半島/阿蘇/天草御所浦/霧島/八峰白神/湯沢/銚子/箱根/伊豆半島
だいたいは知っている場所だろうが、最初の「白滝」はピンとこない人も多かろう。北海道は遠軽町にある黒曜石と旧石器時代の遺跡があるところだ。
今年はもう知らない間に過ぎてしまったが、5月10日は「地質の日」なんだそうである。近頃何とかの日は毎日のようにあって、とても応接できないが、やはりマイナーである。だが、忘れてならないのは、日本でも国際的なジオパークが発足する10年以上前から、新潟県糸魚川市で行なわれていた活動がベースにあったことである。
糸魚川といえば、フォッサマグナである。小さな弧状列島にすぎない日本は、火山国であるが故に、地球科学的にも重要な自然遺産に恵まれているのだ。それらはまた、地震や噴火といった予知できない災害ももたらすが、一方で温泉やさまざまな景観を産み出してもいる
ジオパークの精神は、こうした自然遺産と地域の文化遺産を、それぞれの地域が融合させ結びつけて、その保全を図りながら、教育とツーリズムなどに活かして、持続的な地域の成長と発展を促そうというものであるらしい。
先に「944 万根岬」の項 では、伊豆大島のジオパークについて“隔靴掻痒”といささか辛口なコメントを呈していた。
それは、ネット上ではそれなりに情報もあげられているが、その説明がシロウトの興味を満足させ持続させるに充分なものであるとは思えないことと、島全体の情報連携がとれていないといった印象をもったからである。
また、ツーリズムの観点からも、島をめぐる楽しさのなかに、その要素をうまく持ち込めていないこともある。
たとえば、この地層切断面の現地であるが、道路と地層のあいだの空地は、立ち入り禁止となっていて、柵がしてある。説明も二か所くらい道路際に立っているのみ。その前だけ柵がバックしているので、ここへ車を停めて見ろというのか、はたまた道路を横断してこの柵のところに来て見ろというのか。
もちろん、柵はその気になれば軽く越えられるしすり抜けられる。説明もやたら碑やら板やらが欲しいというわけではないが、島を歩く楽しさ、知的好奇心を誘発する舞台装置としては、いかにもおざなりで芸もなにもない。
外国のことは知らず、日本のジオパークをこれからもっと意義あるものにするために、なにが必要だろうか。
▼国土地理院 電子国土ポータル(Web.NEXT)
34.702764, 139.375083
関東地方(2013/03/22訪問)
補記
[>]「ヨッシン」さん からいただいたメールです
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伊豆大島の地層大断面は4年前に行きました。
もろもろの案内書に載っている崖なので一度は見ておきたいと思っていました。この崖は、地学関係者では有名な崖(地学関係者は崖といわず「露頭」といいます)で、教科書にも載ったことがあるものです。いちどは訪れてみたいところの一つだと思います。
最初に崖を見たときの印象は、削りたてみたいにきれいだなということでした。そのあたりが削りなおしたのではないかと考えるきっかけです。ふつうに、削り直すだけなら1~2mも削ればじゅうぶんですが、後退量が多いのも気になります。このような作業をしたのなら記録が残っているはずなのでちょっと調べるだけでわかりそうなのですが…。ということで、地層大断面の写真を探していたら、前に重機が入っている写真がありました。内容まで記載がなかったので何の工事かわかりませんが、大々的に削っているように見えます。1998年の写真の崖はまだ削られていないようでした。
でんでんむしさんがおっしゃるように、柵が手前にあってたいへん不便だなと感じました。でもこれは、柵が後退しているのではなく、崖が後退したためにこうなったと考えられます。
地層大断面は相当古くからあり、例えば1977年築地書館発行の「日曜の地学4東京の地質をめぐって」にも載せられています。そこにある写真を見ると道路(今より狭い)ぎりぎりのところに崖があります。
このような崖が日本国内で草も生えず風化もせず40年もそのままあるとは考えられません。時々人の手を入れて削り治されていることは容易に推定できます。
日本国内の、地層の見える大きな崖はどこも近づけないように柵が作られています。その理由は次の2つと考えられます。一つは、落石などによってけが人が出た場合(勝手に登って落ちても)管理責任を問われるということ。2つめは、地層大断面のようなすぐ削れるような崖だと落書きだらけになってしまうということ。ここの場合は、昔作ったガードレールをそのまま残して立ち入り禁止の柵にしたようにも見えます。
近づいて細かい特徴を見られないのは残念ですが、ここの地層は遠くから見て地形の変化のようすを考えてみるのがいいのかなと思います。一つ一つの地層がそのときの地表面とみて、こっちにたまって、こっちが削られて、そのつぎはと考えてみるのはどうでしょうか。写真でも十分楽しめます。
地層に限らず、大島全体の解説は火山博物館にあります。といっても、ここと離れたところにあるので、解説を見たときはぴんとこず、地層を見た後でもう一度見直すには日程が‥という感じで何となくちぐはぐなようです。しっかりとした解説本が、もっと身近に手に入るようになっているといいですね。
竜王崎ですが、波浮港の集落の北東の入口近くに岬へ向かう分岐があり、(文学の散歩道13番大町桂月の句碑があります)集落からは行けないようです。朝日と夕日の両方の見える岬、と説明がありました。他に戦時中の鉄砲場の跡もあります。
2013/05/24 ? 「ヨッシン」
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見事な断面ですね
by ハマコウ (2013-05-16 05:57)
思わず引きこまれました。すばらしい記事、ありがとうございます。
by だいだらぼっち (2013-05-16 10:10)
@ハマコウ さん、理科で地層を教えるのは、何年生くらいからなんでしょうね。
by dendenmushi (2013-05-17 20:17)
@だいだらぼっち さん、恐れ入ります。考えてみれば、昔からこういうことにも興味はあったのですが、ちぃ〜とも勉強をしないまま、ここまできてしまいました。
by dendenmushi (2013-05-17 20:22)
@地層切断面の項についてヨッシンさんからメールをいただきましたので、補記しました。
by dendenmushi (2013-05-25 17:10)
元島民です地層切断面ですが自分の記憶では伊豆大島火山博物館が出来る時に切断面の辺りの道を工事して広げてついでに資料を取って居ます。
(別のコメントにある看板や道路との間のエリアはの時出来ました)
特撮のミニチュアですが映画の「海底軍艦」でUFOに襲われるシーンにチラっと写っていた地層のシーンが切断面と道路の関係が良く出て居ると思います。(本当に当時は道路際だった)
by IW (2019-07-20 15:18)
IW さん、コメントありがとうございました。
火山博物館、行ってなかった!
by dendenmushi (2019-07-22 08:37)