943 勝崎＝大島町岡田（東京都）かつてあった「かったき」という岬は今や港のコンクリと防波堤テトラの下に…

　岡田港の岸壁は、ちょうど富士山の方向を向いて延びている。この岸壁は、幅は約100メートル、長さも先端の防波堤まで入れると500メートルを超える。港の岸壁としては広くて大きいほうであろう。

　船が接岸する内側の岸壁に沿ってつけられた、屋根付きの長い通路も、いくつかのトンネルがある一方通行の坂道の上のほうからみると、小さくて「これがそうか？」と探さないとわからないほどだ。

　その先端部では、なにやらクレーンが動いているので、現在も工事中なのであろうか。岸壁の外側、海寄りには、大きなテトラポットがぎっしりと並んでいる。

　テトラポットと高い堤防の内側にはたくさんの車が駐車していて、道寄りは定期路線バスの大島バスや観光バスが並んで船が着くのを待っている。

　旅客待合所の建物も、元町港に比べると、随分古くて狭い。売店横の階段を登ったところには、椅子と畳の待合スペースがあり、大勢の人が出たり入ったりしている。

　ちょうど、帰る日に当たったのが「椿まつり」の最終日とあって、夕方の熱海行きの便が出るときには、岸壁には三人のあんこさんが立って手を振っていた。あ、いやいや伊豆諸島の岬めぐりはまだ始まったばかりです。

　ターミナルの賑やかさと悲しさは、そこを通る人の目的地はほかにあり、単なる通過点に過ぎないということで、ここもバス停から道を横断して目の前に数軒ある店まで行く人は少ない。ましてや、地図の上だけでしか認識されていないような、勝崎という岬のことなど、誰も知らないままバスや車に乗り換え、あるいはまた船に乗り換えてここを通り過ぎていく。

　船の時間に間隔が開く時間帯には急に静かになって、なぜか待合所付近にたむろしている数匹のネコが女性観光客のご機嫌を取り結んでいる。

　勝崎は、これも想像だが、かつてあった自然の出っ張りを利用して岸壁ができたり広がったりした結果、現在ではほとんど岬の体をなさなくなってしまったものであろう。

　しいていえば、テトラ列の付け根付近に、岩磯の名残のようなものがあるので、あるいはそれが勝崎の残る一部なのかもしれない。
　それでも、国土地理院の地図ではテトラポットの岸壁の上に「勝崎」と、しっかりと明記しており、また（でんでんむしがかねてから再三指摘してきたためか!(^^)!）、最近では割と岬名の表示だけはマメにすることにしたらしくみえるZENRINソースのネット地図でも、それにならっている。
　たまたま見つけた国土地理院が平成18年に出した伊豆大島地区「火山土地条件調査報告書」によれば、そこには「伊豆大島の地名」という項があった。それによると勝崎の呼び方は「かったき」となっていたので、それが古い、まだ岬があった頃の呼び方だったのだろう。
　そのことがまた、今ではテトラとコンクリに覆われて誰も知らないでいても、厳然とそこに岬があったという事実の重みを、感じさせ伝えてくれるという、貴重な呼び方である。
　その資料でついでにわかったのは、「岡田」の読み方である。「おかだ」「おかだこう」と連呼してきて何の不都合もなく通じていたのだが、実は濁らない「おかた」なのだという。島でも誰もその呼び方をする人はなかった。あるいは、「おかだ」と思い込んでいる耳にはそう聞こえなかっただけなのか。これだから地名の読み方はわからない。

　勝崎の東にも断崖が連続し、地図ではその沖合いに苗の根、ヨウゴシ根という表記がある。
　“根”とは、一般的に海底の岩場のことである。潮の加減や位置によっては危険な暗礁になったり、また魚類が集まる漁場のポイントになったりする。
　伊豆大島の地図では、ナントカ根の表記が目立っている。これも火山島なるが故のことだろうか。
　根ごと流されてきて、荒波にもまれ根にこすられて、つんつるてんになった大きな木が一本、根の間の小さな浜に打ち上げられていた。 おまえさん、いったいどこから流されてきたのかね？


▼国土地理院　電子国土ポータル（Web.NEXT）
34.790077, 139.392571

関東地方（2013/03/21〜22訪問）

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