917 呼子ノ鼻=備前市穂浪・日生町日生(岡山県)忘れ去られたような静かで小さな海辺の集落は越鳥で… [岬めぐり]

まるで原発のように、山に囲まれて海に面し、周囲には人家もないヨータイ日生工場から西へは、道もない。だが、向かいの曽島との間の水道を西に進めば、やがて右手の本土側に呼子ノ鼻が見えてくるはずである。
日生の町を抜けて、250号線は三軒屋の峠を越えて、穂浪に出る。国道からちょっと入ったマルナカというスーパーの前でバスを降りると、運転手さんが親切に教えてくれた側道を確認して歩き始める。

ここは岡山ブルーライン(397号線)が走っていて、備前インターもある場所だ。ブルーラインは既に無料化されていて、交通量も多いこの地域では重要な幹線道路になっているらしいが、歩道はなく人は入ることができない。では、どうやって片上大橋までいくか。それが問題で、その道順を運転手さんに聞いてきたのだ。
橋のたもとの東にある越鳥という小さな集落までは、当然道もあるのだが、その先の橋の脇までは地図にも道がないのだ。
スーパーからブルーラインに沿った側道を行くと、なるほど運転手さんが教えてくれたガードを潜って上る細い道があるのが見えた。これを上って行けばブルーラインのそばに出ることができ、なんとか片上大橋まで行けそうだ。
だがその前に、まず下る道に入って、越鳥の集落に降りて行くことにする。
それは、片上大橋の東側にある岬が、呼子ノ鼻と橋を渡った対岸の邑久町虫明の穴ヶ鼻と二つあり、それらは橋の西側に出てしまえば、そこからでは橋の東側が見えないと予想されるからである。

越鳥という集落も、まったく世間から忘れ去られたような、それこそ鳥ならばひと飛びに越してこようが…というところである。インターネットであらゆる情報がえられるといわれている現在でも、この集落に関する情報はまず皆無と言ってよい。
ブルーラインが頭の上を走っていても、その恩恵に浴することは少ないだろうと想像できる。だいたいゴミや汚水の終末処理場は、市域のいちばん外れにつくられることが多いが、越鳥は備前市衛生センターのさらに先の海縁りに、戸数40軒ほどかと数えられる家々がひっそりと固まっている。

小さな港の西側には、船小屋のような高い建物が新しくできているようだが、漁業の主な産物はやはり、かきなどの養殖漁業なのだろう。

第一、この越鳥という集落の名前自体が、現在の住居表示からは消えていて、備前市穂浪という地名で括られている。
しかし、この“備前市穂浪”が、またえらく広範囲にかぶせられた地名であって、こうなると場所が特定できるという地名本来の意味からは、ほとんど役に立たない地名になってしまっている。
日生との境界にあたる木生峠から西の端、東片上まで直線距離でおよそ5キロ、北端の伊里駅の北から南端の呼子ノ鼻までは同じく4キロ。それぞれ性格の違う地域を、こう大雑把にまとめて十把ひとからげに“穂浪”としている住居表示に、大いなるギモンを呼び起こすに充分な地域である。
どういう基準によるのかは不明だが、国土地理院の電子国土ポータルでは、こうした現住居表示で消えているはずの旧字名も“なんとなく申し訳に”という格好で表示している。他のネット地図からは越鳥の表示が消えている今、この方式は、今後ももっと徹底して守ったほうがいいと思う。

呼子ノ鼻は備前市日生との境界なので、この岬の地名表示も東西に半分分けされている。
昔その山の上で雨乞いをしたことからその名がついた、夕立受山という標高210メートルほどの山が、でこぼことしつつ南東に流れ下った先端が、この呼子ノ鼻である。

水道を挟んでその向こうにあるのが曽島の西端だが、そこには岬の名はない。写真ではちょっとわかりにくいが、そのさらに南奥にあるのが鴻島の北西端で、ここにも名前はない。

呼子ノ鼻の突き出ている水道には、備前市と瀬戸内市の境界線が走っている。
▼国土地理院 電子国土ポータル(Web.NEXT)
34.715596, 134.243663




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