909 釜崎=赤穂市坂越・相生市相生(兵庫県)相生市と赤穂市の境界の岬の西には静かな小さな湾が… [岬めぐり]

相生湾の入口である金ヶ崎と釜崎の間も、2キロほどしかない。これが相生市の南の境界を示すので、縦に細長い巾着を口を下に逆さにしたような形をしている相生市内には、JRの駅は山陽新幹線の駅もある相生駅を除くと西相生駅があるだけである。赤穂線で西相生駅を出てすぐ高取峠をトンネルで抜けるともう赤穂市。

相生から二つ目の駅が、坂越(さこし)駅で、ここから1.5キロも南に歩けば坂越湾に出る。

ここから湾越しに、正面に見えるのが釜崎である。相生の鰯浜よりはこちらからのほうが、距離的には近いはずなのだが、こうしてみると坂越から見るほうがより遠く見えるのは、光線の関係なのだろうか。鰯浜からは順光だったが、西に回り込んできたので、まだ早い午前の太陽光線は逆光になる。

光る坂越湾の北から、南に向かって延びる尾根の先端が釜崎なのだが、その1キロちょっとの先にある灯台を載せた蔓島の姿がかぶってくる。

釜崎の手前にあるのは、坂越湾に浮かぶ生島で、この島の樹林は史跡マークで表示されている。このように本土から離れた小島で、独自の生態系や植生が保たれることはよくあるので、ここもその例なのだろう。

坂越の駅から千種川を渡り、坂越トンネルを抜けてまっすぐ坂越湾の西に出てきたが、その海岸はきれいに護岸整備されている。砂浜はないが、広い気持ちのいいテラスが延びて、コンクリート堤防の代わりに瓦を載せた低い白壁が、松を植えた海浜の芝生に沿って続いている。

静かな小さな湾に面したこの町は、白壁の古い町並みも残っていて、それがウリらしいが、ここからではあまりそれもはっきりしない。

前項の相生に続いて、ここでもまた地図を見ていておもしろいことに気がついた。やはり地名表示なのだが、坂越の湾を取り囲んでいる一帯は、ぐるりと全部が「赤穂市坂越」となっている。千種川の左岸までが「坂越」なのだが、川の右岸は「浜市」「砂子」。だから、JR赤穂線の坂越駅の周辺は坂越ではないのに、駅名だけが「坂越駅」で、駅の北西、浜市にある中学が坂越中学校。
つまりこれは、この地域の中心は、あくまでも坂越湾を中心としたこの一帯にあることを示している、と考えられる。この坂越は、古い町なのだ。

実は、坂越駅から湾北奥の小島まで行くバスがあった。そのバスの時間まではだいぶ待たなければならないし、行ったとしてもまたすぐ折り返してこなければならないが、それだと次の電車までまた駅で待たなければならない。バスに乗れば、その古い町の中も通っただろう。

結局、同じ時間を使うなら、ここは車窓ではなく、てくてく歩いて行くほうがよかろうという結論になったのだが、果たしてどちらがよかっただろうか。
選ぶことができる選択肢は常にひとつだけなので、その結果は甘んじて受け入れるほかはない。
そのバスの終点が小島で、そこから500メートルも東へ行けば、峠の境界で、その向こうは突崎のある相生市壺根になるはずである。
人影ひとつ見えない海岸のきれいなテラスに、しばし佇んで、歩いてきたことのメリットのひとつを楽しむ。
コメント 0