SSブログ

番外:太地町営国民宿舎「白鯨」=東牟婁郡太地町太地(和歌山県)日本の古式捕鯨発祥の地ではクはくじらのク [番外]

taijihakugei02.jpg
 本でも映画でも、片っ端から忘れてしまうので、昔読んだ本や見た映画など、そのあらずじを再現することなど、ほとんど不可能だ。じゃあ、読んでも読まなくても、見ても見なくても同じようなもんじゃないのかというと、それがそうでもないところがこれまたおもしろいんだね。
 断片的にあるシーンだけをはっきり覚えていたり、読んだ全体の印象が強くいつまでも残ることもある。はっきりいえないけれども、読んだこと見たことの“なにか”は、いつまでもちゃんと残っている。
 難解な本は苦手なので、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』は、本は読んでいないか、読みかけて放り出したか、どちらかだと思うが、ジョン・ヒューストン監督、グレゴリー・ペック主演の『白鯨』(1956年)は、記憶に残る映画のひとつである。封切りではなく二番館あたりで見たのだろう。特撮技術もいかにも黎明期の作品らしい、嵐の海で白いクジラが主人公の船長をロープに巻き付けて沈んでいくシーンなどは、いまでも思い出すことができる。
 この映画は、公開当時こそ“Moby Dick”という言葉とともに、結構話題になったはずだが、なぜかその後はほとんど忘れられていく。それは、興行的に失敗だったこともあろうが、主演のグレゴリー・ペックがその後の権利関係を保持しており、しかも彼自身がこの作品を気に入っていなかったためだろう。
 ウィキペディアでは、枝葉の書き込みにおもしろいことをときどき発見するが、『ジョーズ』のなかで『白鯨』の場面を劇中で使いたいと申し出て断られたというエピソードもそんなひとつである。
 また、スタバよりも安いシャノワールへ行く回数のほうが多いでんでんむしとしてはどうでもいいことながら、“スターバックス”の名前は『白鯨』の捕鯨船「 ピークォッド号」のコーヒー好き一等航海士の名に由来している、という。こういう、どうでもいいことはちゃんと忘れずに覚えていたりする。
taijihakugei03.jpg
 太地町が町営の国民宿舎を開くにあたって、その名前を「白鯨」としたのも、この小説や映画の記憶があってのことだろう。こういう町営の宿泊施設があるところは、できるだけ泊まるようにしている。とくにクジラが食べたいわけではない。ここにはそれを目当てにやってくる客も少なくないようで、いちおうはそれらしい料理も注文してみたが、それについて写真を撮って載せたり縷々書くことはなにもない。
 太地の漁港の南側に密集している集落の中心の反対側、漁港の北側には、山の間に住宅地が新たに開かれている。
taijihakugei06.jpg
 その住宅街の奥まったところ、入江にクジラを囲い込んだものか、“くじらに出会える海水浴場”はこの北にあり、そこへ抜ける鯨浜隧道というトンネルの手前に、国民宿舎はある。両側を海に面した崖に挟まれて、東に向いた部屋の外には、太地湾と燈明崎が広がっている。玄関前の崖の崩落跡が、まだ新しいように見える。
taijihakugei04.jpg
taijihakugei05.jpg
 町営じゅんかんバスは、ふたつの路線とも国民宿舎前を通るようになっていて、ネコバスならぬクジラバスのバス停が4本も立っている。バスはJRの太地駅を起点終点にして、日中一時間に一本くらいのダイヤで町内を回っている。
taijihakugei07.jpg
aboshinohana10.jpg
 「古式捕鯨発祥の地」をタイトルに掲げる太地町のホームページには、今では過去の記憶となった捕鯨については多く語っているが、町のマークになっているイルカとその漁については、まったくその情報にふれていない。
 そのなかでは、太地の古式捕鯨は兵法の観点から工夫し編み出された組織的活動だった、という点が注目される。それが、山見であり、旗や狼煙であり、役割を分担した船と訓練された乗組員などである。
 その古式鯨漁の細かい様子は、実は町のホームページよりは、『紀伊続風土記』に詳しい。引用するにはボリュームもあり長くなりすぎるので、ここはこの和歌山シリーズで毎度お世話になってきた「KEY SPOT」への感謝を込めて、改めてリンクをつけて紹介しておきたい。
 
  鯨漁(太地村)
 (KEY SPOT『紀伊続風土記』現代語訳 牟婁郡那智荘太地村)


 また、町のページでは現在について、「IWCによる商業捕鯨が禁止され僅かに近海捕鯨が水産庁の規制の下で行なわれていますが、かつては町民の大多数が捕鯨や捕鯨関係の仕事に従事し、活況を呈していました。しかし、捕鯨禁止後は水産業の衰退が著しく、町は鯨を中心とした観光に力を入れ、くじらの博物館をはじめ、古式捕鯨時代の施設を整備し、新しい町造りをはじめました。」と言っている。この数行の行間に、この町の苦悩と課題が読み取ることができよう。
taijihakugei08.jpg
 『白鯨』に関するウィキペディアおもしろ枝葉解説では、もうひとつ「ああっ!」と思うことがあった。その映画の脚本は、なんとレイ・ブラッドベリだったのである。なにしろ、福島正実が編集長をやっていた頃の『SFマガジン』が、書店の店頭では『SMマガジン』と並べて置かれていた(これは最近はやりの文脈棚とは関係がなく、中身にかかわらず単に表紙と誌名が同じようだから)頃からの、いささか年季の入ったSFファンを任じるでんでんむしとしても、これには気がつかなかったか、あるいはすっかり忘れていたのか…。
 ちょうど今から3週間ほど前、91歳で亡くなったレイ・ブラッドベリは、好きな作家のひとりにあげる人であった。『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』『死ぬときはひとりぼっち』『太陽の黄金の林檎』『10月はたそがれの国』『ウは宇宙船のウ』『とうに夜半を過ぎて』『二人がここにいる不思議』などなど、曰くありげで実は曰くもあったりする題名の数々…。
 そして、なんといっても小笠原豊樹訳の『火星年代記』(早川書房 1963年)。また、1966年にはフランソワ・トリュフォーが映画化した『華氏451度』も…。
 『火星年代記』を映画化しようという人は残念ながらいないようだが、『華氏451度』は、スティーブン・キング原作『グリーンマイル』のダラボン監督とトム・ハンクスのコンビで再映画化が考えられていた。その計画が、俳優のスケジュールの都合でだめになったとは聞いたが、その後はどうなったのだろう。
 いかにもヌーベルバークらしい、セットにもお金がかかっていなさそうな安上がりの映画『華氏451度』では、公開当時はすごく斬新で先進的に思えた、部屋の壁面に埋め込まれたテレビのような大型情報映像端末だが、もうすでにそれもほぼフツー化している。
 もしも、不幸にも焚書禁書の時代にいたとして、本を守るために森に逃げ込んでなにか一冊の本の中身を暗記しなければならないとしたら、やっぱりシェークスピアよりは『火星年代記』かな…。暗唱できるかどうかは、別だけど…。もしかしたら暗唱できるかもしれないのは、『ウは宇宙船のウ』に収録されている短編『霧笛』で、これは太古の恐竜が海の底からやってくるという、その後に数多くつくられたゴジラ的“怪獣もの”の原点だったともいえる作品なのである。
 ブラッドベリは、まだ建設されていない都市の歴史を書くのがSFなのだと言うが、すでに既成事実となっている古い歴史を引きずらなければならないこの町では、どんな未来の歴史が書けるのだろうか。
 「白鯨」つながりで、ちょっとあちこち脱線したが、岬めぐりはこの後、本線に戻って太地駅から何とか那智勝浦までは動いている列車に乗る。
 あ、そうそう。『霧笛』の灯台があるイギリスの岬の名前は「寂寞岬」といいます。ほら、ちゃんと岬めぐりに戻ってきた…。
taijihakugei01.jpg

▼国土地理院 「地理院地図」
33度35分51.19秒 135度56分46.23秒
taijihakugeiM.jpg
dendenmushi.gif近畿地方(2011/10/07 訪問)

にほんブログ村 その他趣味ブログ
その他珍しい趣味へ 人気ブログランキングへ
きた!みた!印(38)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:地域

きた!みた!印 38

コメント 8

david

楽しく読ませていただきました。
by david (2012-06-27 10:50) 

dendenmushi

@david さん、よくいらっしゃいました。新川ってどこだろう?と、なかなか見当がつかなかったのですが、印旛沼周辺なのですね。千葉は広いし、深い…。タヌキもくるし…。(^。^)

by dendenmushi (2012-06-29 05:54) 

うつぎれい

知人である「わたしの落合町誌」のブログ主さんのメルヴィルに関するコメントが気になって、たまたまこのページに飛び込んできました。

グリーンピース等の外国人の活動「ザ・コーヴ」などを殊更不当なもの・・・と考えておられるようですね。

が、現在の大地町のイルカ漁は、伝統的なイルカ食の維持のため・・・というのは「国内ウケを良くする」為の単なる建前上の理屈でしかなく、実際には世界中の水族館やイルカショー用に、生きたイルカを追い込み漁で囲い込み、数日間餌を与えずに弱らせて捕獲し、1頭あたり600万円ほどの高値で世界中に売り飛ばす・・・という「ホンのここ数十年の歴史」しかない「イルカ拉致誘拐ビジネス」がメインなのです。
そのためにこそ大地町漁師はイルカ漁を続けたいのだということに気付いていらっしゃらないのではないでしょうか?
イルカは魚ではなく、こうした漁によって心に深い傷を負う生き物です。
大地町が年間100頭ほどの「イルカ拉致誘拐ビジネス」で得ている収入は推定6億円ほどで、イルカ肉として売ってる分の収入を全部集めてもその数分の1でしかありません。
イルカ肉としての売値は1頭あたり僅かに7万円程度だからです。

つまり「伝統の日本の食を守る」とか「数百年の伝統」というのはグリーンピースやシーシェパードの批難の本質を、日本人一般に錯覚させる為の都合の良い「言い訳の理屈」でしかありません。

上に記した私のサイトに、この問題についての詳しい説明があります。

ところで話は変わりますが、私も昔々は大のSFファンで、少年少女世界科学冒険全集とかSFマガジンには随分とお世話になったくちです。
SFマガジンののちの編集長で、現在は超常現象などの執筆者である南山宏氏とは、ここ数年来の友人でもあり、氏の最近の翻訳本「エデンの神々」の出版には少しだけ関わらせて貰いましたが、現在は双方とも忙しいので疎遠になってしまっている野が残念です。
by うつぎれい (2012-06-30 22:19) 

dendenmushi

@うつぎれい さん、コメントありがとうございました。こういう反応をお待ちしていました。

でんでんむしは、外国人の活動を「殊更不当なもの」とは考えていませんが、なんとなく同じ日本人として釈然としないものを感じている、という程度の一般大衆の一人です。
この問題については、さほどに大きな関心を持っているわけでもなく、情報を得ているわけでも、明らかな主義主張をもっているわけでもないのです。数少ないイルカ漁師側シンパ?の「なぜ、イルカを食べるのか?」と言った本を読みたいというほどでもありません。
それは、ほとんどの多くの平均的な日本人の意識と同じくらい低レベルでしょう。
それだけに、クジラが捕れなくなった後はイルカをシンボルにしている太地町の地元・公式情報がどうなのかくらいには、ちょっとだけ関心があったのですが、それにはまったくみごとな沈黙ぶりで、空振りでした。
そういうわけなので、うつぎれいさんのような情報・ご意見を聞いて、なるほどそういうこともあるのか、と思いました。
おかげさまで、心情的には多少、バランスがとれたかもしれませんが…。

うれしいですね。同じSFファンとのこと、最近では海外のものにいいのが出ないので、南山宏さんの作品も読ませていただきます。
バローズの『火星のプリンセス』シリーズなどまで、一生懸命読んでいたので、ディズニー映画の『ジョン・カーター』も観に行ったのですが、ちょっと拍子抜けでした。
これも興行的には大失敗作だったでしょう。
by dendenmushi (2012-07-01 06:29) 

うつぎれい

うつぎれいです。久しぶりに覗きに来てみたのですが、でんでんむしさんのレスの後は誰も書いてないんですねえ。

来たついでなので、新しく作ったページの番宣?なんかを・・・( 笑 )

911テロの旅客機が絶対にCGだという決定的な証拠を見つけてしまいました。
「911テロ旅客機が捏造CGだという完全な証拠と証明」
http://www.geocities.jp/netreal_bookbox/info/911_jet_is_CG.htm

お時間がありましたら、是非いちど訪問してみて下さい。

なお以前に公開しておいた下のページの方も、昨年六月から何故か人気が上がり始めまして、今ではグーグルで「株式投資とは」とだけ入れて検索すると上から15番目位には出て来るようになりました。

「株式投資とは何か?」
http://www.geocities.jp/netreal_bookbox/utzugi/index.htm

勝手に宣伝しちゃってスミマセン ( 笑 )

by うつぎれい (2013-06-20 15:44) 

dendenmushi

@うつぎれい さん、おどろきましたね〜。CG説…、アポロの月着陸についてもいろいろありましたね。それにしても、株までとは随分と守備範囲が広いですね〜。

by dendenmushi (2013-06-24 06:12) 

うつぎれい

お久しぶりです。
うつぎれい です。
このページに書きに来る人は他に居ないみたいなので、またちょっと面白いページを作りましたので、そのお知らせです。

昨年2014年の4月28日に火星探査機キュリオシティが撮った6枚組のUFO写真について書いてる内に、何と火星の赤道上空に静止軌道衛星の壮大なネットワークが既にあるのを発見し、その発見の証明プロセスを書き綴る内に、今度はその同じ写真に写る火星の地表に、何と、稼働中の異星人の火星基地 ( 居住施設? ) までが一緒に写ってるのを発見! 仕方がないので、これらの発見のプロセスを実況中継の如く全部纏めて一つのサイトに仕立てました。

これまでルナーオービターの写真などを含めて、こうした異星人の痕跡に拘わる画像の殆どを塗り潰すなどの方法で隠し、世に出さずに来たNASAの史上空前のミスかも知れません。
おかげでこうした異星人の基地の類いが「蟻の巣」に良く似てることを初めて知りました。
コレって結構な大スクープだと思うのですが、学研のムー編集部にはあっさり無視されました。( 見る目が無いですねえ )

ここのURL欄に入れたのがそれですが、一応念の為にURLは

http://www.geocities.jp/netreal_bookbox/utzugi/OpenLetters_007.htm

です。

少々長文のページなので、お時間のある時にでも見て頂けたら大変嬉しいです。


by うつぎれい (2015-02-23 02:42) 

dendenmushi

@すごいな! 宇宙エレベーターですか。そういわれるとそう見えなくもない。
このブログは、コメントも少ない、しにくいようになっていますから…(´ヘ`;)。
by dendenmushi (2015-02-24 09:09) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました