759 永井の鼻=日高郡由良町大字吹井(和歌山県)由良湊を見渡せばしらぬ浪路に鳴く千鳥… [岬めぐり]
由良港付近も典型的なリアス式海岸で、水深が深いということは、一般的に沿岸には平地が少ないことと同義であろう。ここも、港の奥まった山間の河口にわずかな平地があるのみで、それ以外はみな埋立地である。
由良川の河口の小さな市街地を挟んで、北側には三井造船の由良工場、南側には海上自衛隊の基地がある。狭い入江だが、水深が深いために大きな船舶の接岸出入りも可能なので、こうした施設ができたのだろう。
1960年代の終わり頃までは、紀勢本線から延びた引込線が、岸壁まで通っていたというのだが、経済原理は容赦なき衰退をももたらす。
永井の鼻は、宮ノ崎を回り込んだ小さな入江に突き出ている、江の駒の尾根の先っちょにあたる。
崖崩れの跡がある尾根の南側は、三井造船のドックに続いているので、大きな船体ばかりが目立っていて、それより小さいくらいの岬はその陰にある。
港内にある小さな入江をつくる永井の鼻の奥には、吹井(ふけい)という集落がある。バス道路は永井の鼻を回れないので、吹井からは峠越えの道に入る。峠に向かってゆるゆる登るところに、“促進住宅”というバス停があった。雇用促進事業団が建てた団地なのだろうが、今では住んでいる人もごくわずかのようで、ほとんどが空き室のようにみえた。
天然の良港も、それだけでは地域を支えるというわけにはいかないらしい。農業はやはりみかんで、新品種の“ゆら早生”に力を入れて、地域の特色を出そうとしているようだし、漁業も栽培漁業や観光漁業のほうにシフトしているかのようだ。
最深22メートルという深い港の入口にある蟻島は、由良町ではなく日高町になる。
石灰岩の層が走るこの地域では、セメント産業も盛んなようで、港の南側の埋立地にはセメントのタワーも見えるが、その先が町境界になっている。
由良町にある海上自衛隊の基地は、戦前からの海軍の基地を継承したものだろう。そこには、人間魚雷の基地があったはずだが、今ではそれを語ろうとする人もいないらしい。
前項では、『太平記』の由良湊の記述を引用したが、護良親王の熊野落ちは、この入江から船で印南の切目に向かったのではないか。海路でとははっきり書いていないのだが、「長汀曲浦の旅の路」とある記述からは、なんとなくそんな感じもする。それでなければ、ここでわざわざ「由良湊を見渡せば」という必要もないように思われるのだが…。
▼国土地理院 「地理院地図」
33度57分51.77秒 135度6分7.93秒
近畿地方(2011/10/04 訪問)
大きな船ですねえ。
造船所というよりも船の修繕をする施設のようですね。
自衛隊の船もここで整備しているのでしょうね。
by ナツパパ (2012-03-08 15:01)
@大きな船が狭い入江に出入りしているのを見ると、やはり水深の深いリアス式海岸のおかげだと、よくわかります。
by dendenmushi (2012-03-09 08:22)