694 尻別岬＝寿都郡寿都町字磯谷町能津登・磯谷郡蘭越町港町（北海道）町の中に町がある寿都は“茅のある川”

　寿都町の地名表記は、「町」が「字」の中にもあったりして、二つ重なっていて長たらしい。さては、これまた例の平成大合併のせいなのかと、調べてみたらこれがまったく違う。この町で、最後に合併があったのは1955（昭和30）年で、このとき寿都町、樽岸村（一部を除く）、歌棄村、磯谷村の1町3村が合併して、新しい「寿都町」が誕生している。当時は村だった弁慶岬のある政泊は、1933（昭和8）年にすでに合併していた。

　前々項で、黒松内町は南も北もあと250メートルで海へ出るというところで境界線が引かれている、と述べたのだが、南は崖のような山に阻まれていたのでと納得できる理屈がつけられそうだが、北の寿都町との境界線が引かれた場所は、海岸線の砂浜にごく近いところで、どう考えてもこうなったにはなにかしら、物語がありそうだ。
　朱太川の蛇行に合わせて引かれた境界線が、今も残っていること、その名も「界川」という名の川が、これまた250メートルだけ境界をつくって、あとは扇状地に消えていることとあわせ、興味をそそられる。だが、両町から探ってみてもこれに関しての情報はまったくない。

　「すっつ」も、いかにもアイヌ語らしい響きだが、語源は「シュプキペッ」、「矢柄に用いる茅のある川」の意であるという。その川とは、海近くで蛇行していた朱太川のことであろうか。平地はこの川の流域のわずかしかなく、あとはカラマツ、トドマツなどの針葉樹、ブナ、シラカンバなどの広葉樹が生い茂る天然林が8割近くを占める。人工林の多い本州とは、まったく違う山地ばかりである。
　町の歴史は、1669（寛文9）年に和人が集落を形成し、商場所で交易が盛んになった頃に始まるという。町のホームページでは、これが「寿都町の開基」としているのだ。（これも、「コロンブスのアメリカ大陸発見！」と似たようなことになるのではないか。）
　あれっ、ちょっと待って。それは、弁慶より480年も後じゃないですか。そうか、当然アイヌ族はいた、雷電へ旅立つ主従と別れを惜しんだというのは、アイヌの人となんですね。
　さらにまた、前々項では黒松内町がブナの北限地帯とも書いていたのだが、これについても寿都側情報から新事実が判明した。
　なんと、2007（平成19）年になって、国内最北のブナ林が弁慶岬付近にあることが確認された、というのだ。実は、それまでの最北限は黒松内町ではなく隣町の蘭越町ツバメ沢というところとされてきた。黒松内町が、「ブナの北限地帯」と呼んできたのはそのためであり、もちろんそれは「歌才ブナ林」が昭和３年から国の天然記念物に指定されていることの価値を減ずるものではあるまい。
　ツバメ沢よりもさらに1.5キロも北に位置する弁慶岬付近に“最北限”が移動しても、それは変わるまい。

　横倒しになった「つ」の字のような寿都湾岸をなぞるようにして、岩内行きのバスは国道229号線を北上し続ける。遠く西には、弁慶岬を眺めつつ、雷電の巨大な山塊を目指して行くと、やがて、能津登の集落があり、前方に尻別岬が見えてくる。


　ここで能津登トンネルを越えると、蘭越町に入る。そこにはすぐたくさんの支流が複雑に入り組んだ尻別川の河口が開けているが、蘭越町の海岸線は5キロ足らずしかない。

▼国土地理院　「地理院地図」
42度52分37.49秒 140度21分32.21秒

北海道地方（2011/07/17　訪問）

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コメント 2

寿都はニシン漁で大いに栄えた町だったそうですね。
．．．と、過去形で書かなきゃならないのは辛いところですが、
なにせ、黒松内まで自前で鉄道を敷いてしまうんですから、すごいです。
by ナツパパ (2011-09-18 12:58) 

@そうそう、鉄道があったんですよね。あれは、自前だったのですか。黒松内からのバスのところで、鉄道のことも書こうかとも思っていたのですが、確認情報がすぐ出てこなかったので、そのままバスだけで走ってしまいました。
　鰊御殿も、どこか途中にありました。

by dendenmushi (2011-09-19 06:25)