657 大須崎=石巻市雄勝町大須(宮城県)コンブかワカメか迷った末結局コンブと判定したが [岬めぐり]
雄勝の半島を周回する道路を、またてくてくと歩いていく道中は、人はもちろん、行き交う車さえなく、大須の標識があるところまで来てしまった。前方緑の木立のなかに、白い灯台が沈んでいるように浮かんでいる。これが大須の灯台である。
ただ、大須崎という名前がついているのは、灯台が立っている南側の出っ張りではなく、港を挟んだ北側のほうである。標識に導かれて、集落へ。
その間の谷間と斜面に、大須の集落があるのだ。ここには半島東部でただひとつの郵便局がある。帰りには、この大須から出る住民バスに乗らなければならない。乗り損ねては大変なことになるので、まずはその乗り場と時刻を確認しておく。それが、こういう場合の鉄則である。
集落のほうに行く道を辿っていると、道端にコンブが並べて干してある。ここではもう、コンブ・エリアなのだ。それが、655 ハテ崎の項で遭遇した“暖地性植物群落”と、なにかそぐわないような感じがする。
北海道の岬めぐりでよく出合うコンブ干しは、一枚一枚を広げて並べて干すが、ここのはそれとはコンブの大きさ長さも違うし、数本を根元で束ねて、葉を広げるようにして干している。
作業に勤しむ人にバス停のありかを尋ね、教わった家の間の道を降りて行ったよろず屋のような店のそばがバス停だった。住民バスのバス停は、路線バスのような標識が立っているわけではなく、円の中に名前が書かれた紙が掲示板に貼ってある。
バスの時間も確認できたので、海岸へ降りていくと、灯台が右手に見えてくる。傾く西日の逆光のなかにシルエットを描いているこの灯台は、大須漁港の入口とも離れた場所に立っている。
国土地理院の地図を見ると、灯台の前の海は、広く暗礁水域になっている。その中の岩島を取り込んで、防波堤がぐるりと大きく取り巻いて、北の黒磯という島につながっていた。防波堤の一部になってしまった岩の塊は、もし異なる場所を得れば“なんとか岩”と、すぐに名前が付いたことであろう。
防波堤は、暗礁水域を突っ切り、黒磯の島までつながっている。もちろん、ところどころで切れているので、小舟の行き来はできるのだろう。その切れ目から白い波頭がちらりと見えたりすると、八重山のサンゴ礁を思い出す。
漁港の出入り口は、大須崎と黒磯の間で北に向いて開いている。
それで、上の道路に並んでいたコンブは、この灯台下の暗礁で採れたものなのだろうか。小さな船からにょっきりと突き出たゴム手袋を眺めていると、そんな気がしてきた。
それと、ほとんど同時に気がついてしまった。
「あれは、あんた、コンブなんかじゃないよ。ワカメだよ、天然のワカメ!」
バカメ! そんなこともわからんのか、とどこかで誰かが言っているような気がした。どうも、この頃、気がつくのが遅い。だが、ほんとにそうなのか? ワカメとも形は違うような気もするし…。そんな区別もしかとはつけられない自分が情けない。それに第一、バス停を尋ねたときついでに聞けばよかったのだ。
けれども、もし天然のワカメだとしたら、あんなふうに手間ひまかけるだろうか。やっぱり、コンブだな。
大須崎の岩の向こうに、遥かになってしまった峠崎が見える。その奥に横たわる北上町の岬もいくつかあるが、神割崎から先は石巻市から南三陸町になり、これは次回の三陸訪問の課題として残る。
一方、南側の防波堤の彼方に、とんがり帽子のように見えるのは、出島と金華山と牡鹿半島である。
この石巻・女川の岬めぐりを計画しようと考えて地図を見たときには、なんだか大変そうに思えた。実際に来てみると、やはり大変だった。車窓からだけとか、遠望だけとかも多かったし、結局ちゃんと見ることもできなかった岬もいくつかあった。
縮小していく公共交通機関の厳しい現実もあったが、もひとつ印象に残ったのは、市町村合併でいくら市域が広がったからといって、山河や人の生活のルートを変えることはできないことから生じる、さまざまな妙な違和感だった。
▼国土地理院 「地理院地図」
38度31分26.08秒 141度32分44.00秒
東北地方(2010/09/21 訪問)
コメント 0