608 新井崎=与謝郡伊根町字新井(京都府)あらアラ思わぬところニイ千枚田 [岬めぐり]
遠くの沖には舞鶴市の冠島とその北に続く平べったい沓島を望む新井崎は、そう大きな岬ではないので、漁港には長い防波堤が必要だった。岬の内側の南に開けた斜面に、新井(最初は疑いもなく「あらい」と読んでいたが、どうやらここは「にい」であるという。)の集落はぎっしりと固まっている。道路はそのさらに上の高いところを走っているのだが、これはバス道路ではない。
伊根と経ヶ岬を結ぶ178号線は、険しい海岸線は避けて海から離れた山の中を、点在する集落を数珠繋ぎに繋ぎながら、いくつもの峠を昇り降りして入る道をバスは走っている。集落の独立性は非常に高く、その集落だけで固まっていて、隣の集落までは何キロも人家がないというようなところが多い。都会では味わうことのない世界観が、そこにはある。
そう、この付近の足で大きな役割を果たしているのは、「たんかいバス」と呼ばれる丹後海陸交通のバスである。いくつかの集落を結ぶ地域バスもできたらしいが、予約制とかで、ぶらり旅の一見さん向きではない。
新井崎へは、経ヶ岬から帰りのバスの運転手さんと話していて、急にその気になってやってこれた場所であった。丹後半島の岬は、バス路線からも離れているため、今回も一度では全部回りきれないだろうと弱気になっていた。そう思わせたのは野室崎という岬が見えるところへ行くには、前後にかなり時間をかけて歩くしかないことがわかったためである。この野室という集落は、まさに“平家落人の村”といわれても疑わないような離れてある本庄浜からさらに山の中に分け入った海岸に近い狭い盆地のなかにある。それなら、電車の時間まで前回果たせなかった天橋立完全踏破でもやるかと、気ままな行き当たりばったりのコース変更で戻る途中だった。
大原の付近で、運転手さんが新井崎へはここからすぐですよというのだ。何しに来たのかと問われて答えたので、アドバイスをくれたのだ。それで急にその気になって、運転手さんに教わった道を歩いてきた。“すぐそこ”どころか、峠を上ってまた降りて、人にも車にも遭遇しない道を歩いてくると、思いがけない景色にであった。
棚田である。半分以上は放棄されて草に埋もれていたので、“五百枚田”くらいだが、まぎれもなく最近はちょっとしたブームの棚田である。ちゃんとでもないがいちおう看板まである。
ウィキペディアには、ときどきおもしろい記述があって、棚田にも「また、田んぼが段となって作られていることから、段々畑(だんだんばたけ)とも呼ばれている。」とあって、これを書いたのは日本マニアの外国人か、と思わず笑ってしまう。田と畑くらいははっきり区別して認識したほうがよい。
棚田100選まであって、おおいに盛り上がっているところもあるらしいが、ここのは規模も小さいがどういうものなのだろう。日本人のこころを揺さぶる要素が、いくつか内包されている景色ではある。「新井崎海道」などと勝手な名前をつけた、府知事のほとんど意味不明ながら立派な石碑があり、周囲の整備がされているところを見ると、ここもなにかのイベント絡みの場所なのか。ところどころに、大岩の露頭が飛び出しているから、この石も付近からとったものだろう。
新井崎は、その向うに見える。棚田の道を下っていくと、竹林の道を経て、海岸をまく道路に出る。新井の集落はまだ下のほうである。
足取りとしては、ここからさらに南へ、オサルさんのいる道を伊根まで歩いた。
▼国土地理院 「地理院地図」
35度41分38.36秒 135度18分28.43秒
近畿地方(2010/06/09 訪問)
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