602 匂崎=舞鶴市字下安久(京都府)ニホは邇保で丹保で銅鐸も二基出土した [岬めぐり]
舞鶴の町はふたつに分かれていると書いていたが、市役所は東舞鶴にあり、田辺城は西舞鶴にあった。港の用途も多少異なるようで、西舞鶴の埠頭は貨物が中心のようで、匂崎の対岸には広い貯木場もある。かと思えば、匂崎の南には、道路脇の岸壁にはやはり軍艦らしき船が横付けになっていたりする。
それぞれの街にJR東舞鶴駅と西舞鶴駅とがあって、およそ7キロほども離れていて、そう高くはないが山で隔てられている。西舞鶴は北近畿タンゴ鉄道宮津線の起点終点駅になっているが、JRのほうは東舞鶴を小浜線の起点終点にしている。このため、初めての人が、宮津のほうから小浜へ行こうとする場合と、その逆に小浜方面から宮津方面へ行こうとすると、はなはだわかりにくいうえに不便である。
この間を鉄道と27号線その他の道が連絡しているのだが、JRは1時間に一本しかないので、やはりバスで往来するのが便利だ。そのひとつに市役所前から長浜の坂の上を経て捻松崎から西舞鶴港に沿って、和田、二尾、西舞鶴を結ぶ迂回路を走っている路線がある。
その道の途中には、乙礁(おとぐり)という岩礁が国土地理院とAlpsMapには明示されているが、例によってZENRINソースの地図ではまったく無視されている。現在では防波堤ができていたり、その隣に接して新しい国際埠頭ができたりしているが、この岩礁にも名前があり、しかも何やら石灯籠まで立っているところをみると、それなりのなにかをもつものであろう。
国際埠頭へは舞鶴みなと大橋といういささか名前負けのする高架橋が架かっていて、その下にはマリンホテルがある。
別名安久山ともいわれる標高300メートルの五老岳は、そのてっぺんに展望塔のようなものがあるので、ここからみれば、複雑な舞鶴湾の姿がよくわかるのだろうか。
埋立地の埠頭を過ぎてカーブを曲がった先に、突然姿を現わすのが、匂崎である。そこだけ独立した小山になっていて、一帯が公園になっているようだ。後でわかったところでは、この付近からは銅鐸が二基出土した遺跡もあるのだそうだ。そうとわかっていれば、ここでバスを降りてみればよかったのだが、ここもバスの便はよくない。
「匂崎」とは、いったいなにが匂うのだろうと思うのは、現代人の短絡で、ここは「二尾」という古名も残っている。集落の集会所の看板には、「匂ヶ崎」となっていたが、もともとはこの岬は「邇保崎」と書いたらしい。
とすれば、ニホ→ニオと転じたわけで、匂いとは関係がなく、仁保、仁尾、丹尾、仁布、仁宇、丹生といった地名と同じく、古代に彩色朱の原料や薬品として珍重された辰砂(朱砂=水銀)を産出した場所にかかわるものであろう。“賢者の石”という呼名もあったが、現代ではハンコの朱肉の朱もそうだというのが、いちばんわかりやすい。
西大浦にも、丹生川という川や大丹生という集落があったので、ここもそうかと思ったが、この関連地名は全国に多い。
それらと、銅鐸を重ね合わせると、この付近の古い歴史も垣間みえる。
地名とはまことにふしぎなもので、そこには歴史が凝縮されている。しかしながら、その研究と成果の公表と活用、また個別事例の網羅には限界もあって、その手の本を読んで満足がいった試しがない。権威とされている柳田国男にしても同様である。
安久(あぐ)とは、なんであろうかと、思って調べてみても、これといった回答が得られない。
そんななかで、生まれも育ちも舞鶴という斉藤さんという個人の方が、いろいろ調べて書いている『丹後の地名』というホームページに遭遇した。これがなかなか、いろんなことにツッコミが入っていて、おもしろい。
でんでんむしのブログと同じく、文字を読むのがめんどくさいという人向きではない。文字がぎっしりで、たとえば、でんでんむしが、丹後に入って見てきた成生岬をはじめとする地名はもちろん、有識者について書いたことや、赤煉瓦の戦争遺産の意味や、柳田国男への評価まで、一生懸命に自説を展開している。
単なる通りすがりのでんでんむしなどは、その場での思いつきを軽くなでているに過ぎないが、こちらは熱く語っていて市当局などに対する批判も鋭い。
丹後の地名では、これからもお世話になるかも知れないので、メールを出してここでリンクさせてもらうことにした。
このサイトには、「大江季雄選手と友情のメタル」というコラムもあって、それについてはでんでんむしも昔調べて書いたことがあるので懐かしい。「前畑がんばれ!」で有名な第11回ベルリン・オリンピックの、もうひとつの棒高跳びのエピソード。そういえば、大江選手は、田辺城南の西舞鶴高校の出身だった。実家は東舞鶴だったはずだけど、なぜか。
実は『山椒太夫』にからんでも、ちょいワル役人で出てくるくらい、丹後地方には大江姓が多い。大江町(福知山市の一部になってしまったけれど)も大江山もあるしね。
▼国土地理院 「地理院地図」
35度27分52.69秒 135度19分36.87秒
近畿地方(2010/06/06 訪問)
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