565 秋葉崎=大町市平(長野県)平らでない平はやたら広くてそして… [岬めぐり]
“仁科三湖”と、当時から呼んでいたのかどうか、確かな記憶はないが、初めて大糸線で通ったときも、木崎湖・中綱湖・青木湖の景色は記憶の隅に残っていた。
なかでもいちばん大きい青木湖は、線路が湖に沿ってきれいに見えたような気がしていたので、白馬村から大町市に入るところから、ぬかりなくカメラを構えていたのだが、北の獅子ヶ鼻はなんとか撮れたが、秋葉崎のほうは木が茂っていて視界が遮られた。
簗場の駅で降りる(もとろん、こんなところで降りるのはほかにいない。なんとなく車内の眼が興味を示しているように感じられる)と、駅の前が中綱湖で、2〜3人の釣り人が、湖岸に糸を垂れている。何が釣れるのだろう?と一瞬は思うけれど、決してどうしてもそれを知りたいというわけでもない。ただ、簗場というのは、漁法に関係する名前なので、この山の中の湖での漁労には、歴史も謂れもありそうな気がする。
陽射しが強いので、日焼け止めを塗り、近頃やたら“水分をこまめに取れ”とかうるさいので、自販機でお茶を仕入れて歩き出す。
湖の西岸を青木の集落を突き切って北へ進むが、秋葉崎はなかなか姿を現わさない。突然、観音像と古びた自然教育園の看板が目に入る。ここが秋葉崎の入口なのだ。
細い道を少し歩くと、すぐに行止りになり、そこが岬の突端である。ここも、実際に岬の上に立つよりも、遠くから離れて見る方がよい岬である。
しかし、ここで重大な発見をする。なんとよく見ると足元の枯れ葉の間に小さな花弁の先が縮れたような赤い花が咲いている。
これは、イワカガミではないのか。アルプスに自生する高山植物である。確かにここはアルプスの麓だが、標高は838メートルしかない。イワカガミが咲くかなあ。でも、咲いているなあ。似ているけど別の品種なのかな。それに、イワカガミは尾根の吹きさらしのような場所に咲くのに、ここは薮のなかだしなあ…。
あれこれ考えてみても、確かなことはわからない。せっかくなので、いちおう高山植物のイワカガミということにしておこう。
あ、ダメですよ。ガーデニングおばさんや、車で走り回ってはやたらなんでも採取してきちゃうおじさん。
秋葉崎のイワカガミを持って帰っちゃダメですよ。
「やはり野におけ蓮華草」っていうでしょ。こういうのを、引っこ抜いて持って帰っても、絶対うまくいきませんからね。やめてください。
長い間にわたる「黒部景気」で発展してきた大町市は、合併でその市域を広げてきたので、この青木湖まで大町市で字名が「平」である。この字がまたやたら広くて、おまけにタイラどころか、仁科三湖から日本の屋根「北アルプス」の3000メートル級の山々をいくつも網羅する、とんでもない字地名なのである。
北からあげてみると、五龍岳の東から始まって鹿島槍ケ岳、爺ヶ岳、岩小屋沢岳、鳴沢岳、赤沢岳、針ノ木岳、蓮華岳、不動岳、南沢岳、烏帽子岳、三ツ岳、野口五郎岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳、樅沢岳、槍ヶ岳、赤岩岳、大天井岳、燕岳、餓鬼岳、そして仁科三湖をぐるりと結ぶ内側が、全部「大町市平」なのだ。
青木湖の西岸の道は、千国(ちくに)街道という古い道である。これは、糸魚川と松本・塩尻を結ぶ塩の道だった。杉木立の中、路傍に点々と座すのは、これも信濃の名物、石仏である。
ところが、この道ではアブが顔にまとわりつくので、おおいに閉口した。
36度36分34.51秒 137度50分45.58秒




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