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番外:大糸線=糸魚川市・北安曇郡(新潟県・長野県)今は昔…ただ一度だけのアルプス体験から [番外]

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 「大糸線」という名前の響きには、かつてやるせないほどの想いをもった山男たち(山女はまだ当時は希少種だった)によって語られてきたなにやら重々しいものが、折り重なっているかのようなイメージがあった。
 名古屋から中央本線で松本まで行く。小ぶりで煙突がちょっと長い蒸気機関車に引かれて、松本からゴトゴト揺られるとまず有明で降りる。それから中房温泉を経て燕岳に登り、いわゆる表銀座コースを槍ケ岳まで縦走する。槍沢に降りて上高地を経て、また松本へ戻る。再び大糸線に乗ると、今度は白馬で降りる。ロープウエイで八方尾根に取りつき、そこからは唐松岳の鞍部を越えて、黒部渓谷の祖母谷へ降りる。欅平まで出て、関西電力のトロッコで宇奈月へ行き、富山から芦原温泉・東尋坊を経て、広島に帰ってきた…。
 それが、でんでんむしの唯一のアルプス体験であったし、東尋坊で初めて眺めた日本海が、岬めぐりへの遠いけれど確かな伏線となっている。
 それは、1958(昭和33)年の夏のことであった。コースの概略だけを書くと、どうということはない。だが、大糸線の列車に乗ってから、急きょ決めたおまけの唐松越えが、実は大変なものだった。通常、唐松越えの標準コースは八方尾根から唐松小屋までが一日、唐松小屋から黒部渓谷へ降りるまでが二日の行程である。それを、八方尾根山麓にテントを張り、ロープウエイが動き出すのを待って登り、その日のうちに餓鬼の田圃を通って祖母谷に降りたのだ。こちらは、リーダーに従って付いて行くだけだったが、二日のコースを一日で歩こうというのだから、それはそれは…。
 唐松小屋から降りる黒部の道は、気が遠くなるほど長く、歩いても歩いてもきりがなく、祖母谷温泉のランプの一軒宿にふらふらで辿り着いたのは夜も8時近くだった。
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 それ以来の大糸線というわけではないが、今回は糸魚川から入って南下するのも久しぶり。直江津からは、特急「はくたか」で糸魚川まで行く。その間に、JR東日本のエリアを越えてJR西日本エリアに入る。糸魚川からの大糸線も他の線と同じく一本では行かず、一両編成で南小谷まで行き、そこで乗換えになってまたJR東日本の線に戻る。
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 いつだったか、大糸線の沿線で集中豪雨があり、線路も流されて長いこと普通になる、ということがあった。旅館なども半分流されるといったテレビを見たような憶えもある。豪雨で川がどんなになるのか、そのときのものか、鉄橋の橋脚がぽつんと取り残されている。
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 一両編成の電車で、横並びの向かいの席に糸魚川から乗り合わせた黒いスーツ姿の若い女性は、黒いころころケースとバッグを持っていて、座るやいなやなにやら書類を出して、ケースを台にしてなにやら一心不乱に読んだりメモしたりしている。脇目もふらず没頭しているさまも、若さゆえなのかと、ちょっと気になった。どこか沿線の町へ営業に行く人かと思ったら、会社案内のようなものを出してめくっている。みればまだあどけなさも残る学生のようでもあるので、営業ではなくて就活なのか。
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 大糸線で、どんな会社があるのだろう。大町まで行けば、昭和電工などもあるが、途中には大きなあるいは中くらいの会社もほとんどあるまい。電車の乗換えで、今度は二両編成になり、彼女がどこへ行ったのか、どこで降りたのかもわからずじまいになってしまったが、とにかくその一生懸命に勉強しているさまをみれば、でんでんむしが採用担当者ならそれだけで合格といったかも知れない。それにしても、大糸線に揺られて通勤はできまいし…。
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 車窓から白馬の連山が流れていくが、どれがどの山かまでは判定するのはむずかしい。ただ、信濃森上から西南西方向に見えるのは、まぎれもなく唐松岳である。
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 若い時代の、あの日、この尾根を越えたのだ。
 若いときの、たった一度の経験でも、それは一生の宝物となる。
 そういうことがあるのは、間違いない。
 大糸線の若い女性にとっても、あの日のことが人生を開いていく重要なポイントになり、忘れられない日になるのかも知れない。

▼国土地理院 「地理院地図」
36度52分45.52秒 137度52分4.76秒
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dendenmushi.gif北信越地方(2010/05/23 訪問)

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