556 手結岬＝香南市夜須町手結山（高知県）人はいさ心も知らず土佐日記いったん終了

　ここでは「手結」は「てゆい」ではなく「てい」と読む。辞書によると「手結（たゆい）」は、上代の装身具でひもでたまや鈴などを通して袖を結んだりしたものだ、という。よく絵で見る、白い緩衣の袖口をくくっているあれのことだろう。沖縄には、この字を書く織物もあるが、こことは関係がないだろう。
　手を結ぶ、手を打つということだから、あるいは長宗我部と安芸氏の終戦協定が結ばれた場所だったとかいうのであれば、話ができすぎているが…。

　手結岬は、岩に囲まれた丸い出っ張りで、小ぶりな灯台も立っている。岩も赤っぽいので、ここらは花崗岩質なのだろう。岩が連続する先には堤防が延びているが、これはなんのためなのだろう。

　灯台の向こう側には、夫婦岩もあるらしく、マンホールのフタにはそれがデザインされていた。そこには旧町名が書いてあるし、夜須駅のにんぎょちゃんのある駅名表示では「香南市」のところだけ後から修正したように白くなっていた。

　岬めぐりであちこちへ行くと、行く先々で合併で町の名前が変わったというところに行き当たっていた。ときどき気まぐれに町村合併のことにもこれまでふれてきた。ここも、2006年（平成18）年に赤岡町、香我美町、野市町、夜須町、吉川村の４町１村が合併してできた市だったのである。その名は、香美郡からとった。大きな市が周辺の町村を合併するのではなく、いわゆる対等合併で新しい市をつくったケース（新設合併）に当たる。


　すさまじい平成の大合併の嵐は、どうやら終息したようだが、この結果この3月には、とうとう町の数より市の数のほうが多くなった。補助金に釣られて…というより地方財政の行き詰まりをしのぐためということなのだろうが、総務省の作戦はまんまと的中し、日本地図は大きく塗り変えられた。
　1999年3月末時点では3,232あった市町村の数は、2010年3月末では1,727と、11年間で約半分近くにまで減ってしまった。670あった市は786市に増え、1994あった町は757町に減り、568村はわずか184村にまでなってしまったのである。
　香南市から西隣の南国市へ戻り、高知龍馬空港から羽田へ帰る。
　南国市は、もう50年ほども前に5町村が合併してできた市であるから、古株の部類に属する。高知空港があるからというわけではなく、古くは国分寺と国府がおかれたこの地域の中心地だった。紀貫之は、ここへの赴任と帰任の道中体験を『土佐日記』として書いた。その名は教科書にも必ず出てくるので有名だ。古典にいちゃもんをつけてみてもしかたがないが、これは題名に偽りありで、要するに浦戸を目指す船旅が大変で、「京に入り立ちてうれし。」といった程度のことしか書いていないので、随分土佐をばかにしている。また、この付近が長宗我部の本拠地でもあった。
　土佐くろしお鉄道の起点である後免は、江戸時代の新田開発でそこから南一帯の開発が進められたときに、入植者の年貢を免除するという優遇策をとり、その謂れが町の名に残ったという。ニンジンを鼻先にぶら下げれば、人はどうでも動くものらしい。
　支給が始まったこども手当て。この地域のこどもが増えるのだろうか。4日の土佐市を皮切りに、香南市は10日、南国市は13日に支給開始、と高知のニュースは告げていた。
　香南市も南国市も、全国平均に比べて若者よりは老人の数が多く、女性の高齢者が平均より多い。しかも、南国市は高知県では高知市に次いで人口が多い第二の市なのだが、全国第二の市だけを比較すると、ここが日本一人口が少ない。

　新田開発でできた広い田園の中にある空港の展望台に出てみると、ちょうど大阪伊丹からのボンバルディアDHC8が着いたところだった。飛行機を見にきたこどもたちを喜ばせるために、ここでもアンパンマンはがんばっている。

　今回の高知県岬めぐりシリーズは、4泊5日と少し長かったが、本項をもって終了である。羽田へ帰ってくると、地方からの到着便はいつもはじっこのほうに着けられるので、機を出てから出口までエンエンと遠い。

　そこを歩いていると、いつも東京へ帰ってきたなあと実感が湧いてくるのである。

▼国土地理院　「地理院地図」
33度31分15.13秒 133度45分16.28秒

四国地方（2010/01/25　訪問）

タグ：灯台 町村合併 高知県