551 下竜頭岬＝高知市浦戸（高知県）そんなこたあわからんきに知らんぜよ

　へそまがりのでんでんむしは、なんでも世の中のブームというヤツに乗せられるのが大嫌いである。またぞろ出てきた血液型のなんたらかんたらでも、「右と言われれば左と言う。それが基本。」と書かれているB型だからかどうかは知らぬが、だいたい昔からそうなのである。
　だから、サッカーの日本代表の出陣式に、なんで“高さ10メートルの坂本龍馬像”がでてこんならんのじゃと、こういう風潮を憂うる。けれども、こういうことでもなければ、坂本龍馬のことをまったく知らずに一生を終える人もいたかも知れないと思えば、そういう騒ぎにも一定の役目はあるといえる。そう考えて、あまりそんなことに目くじらをたてるのもどうかと、抑えておこう。
　ただ、情報というものを発信する側の判断基準が、常にそうしたブームを追うことにしかなく、それがあればネコもしゃもじも騒ぐし、それがなければ知らん顔を決め込むのが常なので、いつもそこに疑問といらだちを禁じえない。
　今回の高知岬めぐりが、龍馬ブームに便乗したものではないとこのシリーズの冒頭で弁解していたが、この下竜頭岬も龍馬とは直接関係がない。とはいえ、岬の上のほうに記念館はある。それに、2010年頭からNHK大河ドラマ『龍馬伝』が始まったときには、そのタイトルバックをみて、すぐに“これは下竜頭岬を逆光で西の浜から眺めたものだ”と思った。が、事実は知らない。

　なぜか、CMなどの龍馬もこの岬を背景にこの砂浜に立って海を眺めるものと、相場が決まっている。人間のもつイメージというのは、そのようにして強固なものになっていく。

　とにかく、このあたりを龍馬と結びつけたがるのは、かの銅像のためにほかならぬものであろう。
　岬の名前である「竜頭」も、丸くぴょこんと飛び出たその形からついたものであろうし、それは時計の“竜頭”と同じなので、やはり龍馬とは関係がない。


　岬の先端の岩の上には竜神が祀られている。その下の岩の向うには、初日に泊まった土佐市の白ノ鼻や竜岬がある横浪半島の東端が見える。そこの灯台とここの灯台の灯がシンクロした瞬間のことは511 白ノ鼻の項で書いたが、それもはるか以前のことのように思われる。

　下竜頭岬という名前は知らなくても、ここへやってきた人の数は相当なものであろう。なにしろ、高知観光へきた人で、ここへこない人はまずいないだろうと思われるくらいである。

　国土地理院がどういい、どう書こうが知ったことか、と反逆したいB型の人間がいたのだろうか。観光案内板には“龍王岬”と麗々しく表記してあるので、下竜頭岬なんか知らんでと思われている人が多いのだろう。
　それは知らなくても桂浜は有名で、これとセットになった岬が下竜頭岬である。おそらく、桂浜の写真では、この岬が写っていないもののほうが少ないのではないか。
　でんでんむしが、ここへやってきたのは二度目である。最初に桂浜を訪れたときには、土佐犬かどうかはわからないが、砂浜に溺死したらしい死骸が放置されたままになっていて、いたくイメージが悪いままで長年過ごしてきたので、今回はそれを払拭したかった。


　高知駅前のホテルを出て、始まったばかりの龍馬イベント会場に設けられた、龍馬の花人形に送られて、市電ではりまや橋まで向かい、そこでバスに乗り換える。桂浜へ行くのは、なかなか不便なのだ。桂浜から牧野植物園をめぐる観光用のバスもあるのだが、始発が遅くて使えない。
　その名も高知龍馬空港から駅に着いて、まずそのバスに乗る計画があえなくつぶれたいきさつは、508 荻岬の項でふれたとおりである。
　高知南高校の生徒たちであろうか、自転車通学の車列と競争するようにしてバスが一直線に桟橋通りを走って、そこからまたさらに浦戸湾の西側を南下する。この浦戸湾という湾は南北にやけに長い。

　その、湾がフックになって曲って外海に達する先端に、下竜頭岬と上竜頭岬はある。
　そして、そういえば…と思い起すことがある。昔、会社に入って最初の上司だった人が、話し言葉の末尾に「…ぜよ」とつけるくせをもっていた。それから長いつきあいが仕事上ではあったのに、高知人でもないその人がどうしてそうするのか、ついぞ尋ねたことがなかったのは、“この人は龍馬かぶれなのか”と思って勝手に納得してしまったからかもしれない。

▼国土地理院　「地理院地図」
33度29分43.96秒 133度34分27.90秒

四国地方（2010/01/25　再訪）

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