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477 クキドウノ崎=下北郡東通村大字尻労(青森県)坪3万円、3LDK家賃47,000円。住んでみませんか? [岬めぐり]

 当初は、尻労(しつかり)までしっかり行くつもりだった。だが、どうやってみてもバスダイヤの都合が悪くて、あきらめざるを得ない。それに、仮に尻労まで行けたとしても、そこからクキドウノ崎がしっかり見えるとは限らないのだ。
 なにしろ、ここも道がなくて、離れたところから見るしかないのだが、尻労まで行っても手前の出っ張りが邪魔をして、見えそうにない。
 ならば、30キロ近く離れている(離れ過ぎだろうとはいえ)物見崎からの遠望の方が、まだマシだと考えることにした。
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 縮尺の小さい地図では、物見崎からクキドウノ崎まではほぼまっすぐの直線のように見えるが、実際の景色では、ちゃんとかなり湾曲しているように見える。
 これも景色の見え方として、ちょっとおもしろいところである。
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 桑畑山からクキドウノ崎がストンと断崖で落ちているさまは、ここからでも充分にわかる。
 クキドウノ崎の左手前にある白い建物群は、2005年から営業運転をしている東北電力の東通原子力発電所である。東通村は、早くからともいえないが原子力とともに共生する道を選び、原子力発電所誘致により村の基盤をつくることに決めたようだ。それには、原燃を誘致した隣村の六ヶ所村の様子も参考になったのだろう。
 この後、東京電力の1、2号機も、平成29年の営業運転開始を目指して準備が進んでいるという。
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 まだ若い運転手さんが運転する、むつバスターミナル行きの下北交通バスは、原子力発電所の前を過ぎてなおも北へ向かい、猿ヶ森というところでまで行く。ここには、防衛省の試射場があるからだろうか。かつてはこの半島を覆っていたであろうヒバの埋没林もあり、降りて行ってみたいところだが、そうもいかない。バスはすぐUターンして、東通村役場のあるところを目指して走る。
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 バスにしてはかなりのスピードだが、信号もなければ対向車もない。もちろん歩いている人などいないし、停留所で乗降する人もいない。終点に着いたときも特別早く着いたというわけでもないところをみると、これが標準スピードなのだろう。
 砂子又という川沿いの盆地のようなところが、東通村の中心地である。
 村役場のほか、野花菖蒲の里という医療介護の複合施設があり、学校や体育館や分譲団地や村営住宅や東北電力の社宅・寮など、さまざまな施設が終結していて、そのどれもがまだ新しい。周囲を見渡してみると、新しいキャンバスに新しい村の設計図を描こうという思いや情熱が伝わってくる。だが、せっかくなら電線などは地中に埋設したほうがよかったのに…。
 東通村の誕生は古く、1889(明治22)年から村があったが、村役場は平成になる少し前まで、実に100年もの間、むつ市にあった。町村外の別の場所に役場を置くという例は、八重山諸島などの離島ではあるが、本土で集落がバラバラに点在していて交通不便のため、というのはめずらしい。
 ここが原発依存に踏み切ったのは、やはり長い間人口が少ない過疎の村として悩んできたからだろう。前項でふれた六ヶ所村よりも少し広い東通村は、逆に人口は六ヶ所村の7割ほどで、当然人口密度は1平方キロメートル当たり26人と、過疎度は六ヶ所村より高い。
 村のホームページを開くと、不動産広告のようなページが飛び込んでくる。
 「ひとみの里住宅団地」 標準単価29,500円/坪 (122.04坪〜215.45坪)
 「グリーンパレス瞳」東通村民間活用住宅 3LDK(約24坪)、オール電化住宅)家賃は、47,000円
 そこで、村役場周辺を中心に、分譲地や住宅を斡旋し、新しい村づくりに期待をかけているわけだが、村が整備してきた住宅団地は売れ残りが目立つという。
 それにしても、ここは「ひとみ」とどういう因縁があるのだろう。それに、「東通村(ひがしどりむら)」とはどういういわれの名前なのだろう。
 どちらの疑問にも、村のページは答えてくれないが、坪3万円はどうでしょう。それにさすがに一区画が広いなあ。家賃も、東京に比べればはるかに安い。だが、それだけで、ここに住もうという人はいないのだろうか。でんでんむしは、寒いのにはからっきし意気地がないし、免許もないので、不適格だなあ。
 一般会計は黒字だが、財政赤字を抱え、原子力発電所からの固定資産税も減少傾向にあるとかで、村づくりもなかなかたいていではない。
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 ここ元南部藩領の一部には、明治になってすぐ、廃藩置県のわずか2年前に新しい藩が置かれている。その名を、斗南藩という。
 今やっている大河ドラマでは、会津には上杉が移封されているが、彼らがそこにいたのはわずか3年ほどでしかない。関ヶ原後すぐに家康によって米沢に減封転封という懲罰的扱いをされてしまう。
 米沢も大変な土地で、越後から会津と連れてきた多くの藩士を養うことができなかった。後に、その苦難の藩経営にあたって、有名な上杉鷹山が出てくる。(そういえば、鷹山と容保の役を、時期も違うが同じ役者がやっていた別々のふたつのドラマを、NHKで見た記憶があるな。関係ないけど。)
 江戸時代の会津は、家光の異母弟で名君といわれた保科正之が松平家を立てるが、幕末には正之から9代目にあたる松平容保(かたもり)が、京都守護職にあったという不運から幕軍の先頭にたった戊辰戦争に敗れ、会津を追われることになる。
 そのとき、容保の長男が家名を継ぎ、旧会津藩士が移されたのが斗南藩であった。当時は、ここは不毛地帯といわれ、生活は困窮をきわめ、飢えと寒さで多くが命を落とし、旧藩に舞い戻ったりするものも多く、ここに根を下ろすこともできなかった。
 これは悲劇としていくつかの小説やドラマなどになって、人びとの知るところとなったが、おおむね新政府が会津への報復から行なった強制的な処置だとされている。けれども、実は旧領の一部である猪苗代か、新天地の斗南かどちらかを選べという提案だったし、これを受けた藩内では紛糾したものの、結果として自分たち自身で斗南を選んだのだから、決して強制ではなかったという説もある。
 しかし、だから新政府が公正だったということにはならない。勝者が敗者に対して行なう仕置きに、公平さや公正さを求めることはできない。猪苗代という狭い場所に周囲を旧敵に囲まれ押し込められるのと、どちらがいいかといえば、それもまた苦渋の選択、苦渋の決断というわけだったろう。
 とにかくそれで、いったんは斗南に行ったものの、会津に戻るようなことがあった理由も、なんとなくわかるような気がする。
 下北の不毛の地に、それでもがんばって残った人びとのなかからは、その後に多くの地方議員や市町村長らを輩出した。また、官吏や教員などになった者が多かったという。でんでんむしは、そのことを「実際にうちのオヤジも教員でした」という子孫にあたる人から聞いたことがある。
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 でこぼこの森と荒地と、たまにある小さな集落をつなぎながら走るバスの中で、いろいろなことを考えてしまった。
 人間が、一つの場所に住み着いて、生活を立てるということは、昔も今もそれなりに大事である。

▼国土地理院 「地理院地図」
41度22分50.25秒 141度27分34.08秒
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dendenmushi.gif東北地方(2009/09/08 訪問)

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タグ:青森県
きた!みた!印(8)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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きた!みた!印 8

コメント 2

dotenoueno-okura

この“下北半島シリーズ”は、ごっつよかばい。これぞ岬といふ条件を満たして拙者はご機嫌、その一方で(よくぞこの辺境まで出張ったものよ)と感嘆してござる。
原発施設、六ヶ所村をニュースで聞くたび、林立する風車を思い出しておる。そう南部藩、斗南藩も……かつてはまさに不毛地帯、苦渋の選択といわれる状況がわかりますなあ。昨日の夕刊(朝日・人脈記)に、維新後開墾事業に奮励した庄内藩主と藩士のことが書かれておったが、東北各地で同様のドラマがあったはず。戦争は規模の大小だけでなく、今なお世界各地に見られるやうに内戦の悲惨はまた格別。その点わが国の歴史では「あっさり」とすませておると思うのじゃが、如何。
別のドラマとはいえ、鷹山と吉保に同じ役者を起用するとはNHKも無神K ! 断じて「 関係なく」はない。イメージの汚れを無視した不手際でござる。
by dotenoueno-okura (2009-10-01 09:38) 

dendenmushi

@あっ! 違いますよ。それは勘違い。「吉保」ではなく「容保」ですよ。まあ、鷹山と容保も、直接的にはなんの関係もありません。
ここでは、流れで斗南とくっつけて並べてみただけで…。
それとね、役者がいろんな役をやるのは当然ですから、まあ、たまに前後の状況を考えれば、それはミスキャストだろうというのもありますが、基本的にはこれはいたしかたがないですね。
ただ、そういうことが気になるのは、見るほうの想像力の問題も含めた見方もあるし、役者が役になりきれないで劇中の「役」ではなく、「俳優」個人として見てしまうことが、往々にしてあり、それがまたごっちゃになっている、ということもあるのではないかな,と愚考しておるところでござりまする。

by dendenmushi (2009-10-01 10:00) 

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