466 矢出ヶ鼻=玉野市渋川(岡山県)矢出山の裾に名と岩だけが残った? [岬めぐり]
前項では「唐琴警鐘台」に引っ張られ過ぎて、児島高徳のことも、菅公のことも、書くのを忘れていた。といっても、児島高徳の偉蹟がこの付近にあるというわけではなく、“せっかく児島にきたのだから、児島といえば「天勾践(こうせん)を空しうすること莫(なか)れ、時に范蠡(はんれい)無きにしも非ず」の児島高徳を忘れちゃダメでしょう”という程度のノリであり、菅公はそういうブランドの学生服がやはり田の口でつくられていたこともあり、琴浦にはちゃんと天満宮もあるというだけのことだ。
不得要領の唐琴警鐘台と、半月形の山懐に包まれた唐琴の集落をあとに、日中たった1本しかない下電バスは東に向かい、間もなく王子ヶ岳国民宿舎が終点となる。ここから先へは宇野駅へ行く両備バスに乗り換えるが、これまた数本しかない。そのバスの時間までの間に、矢出ヶ鼻を訪ねる。
矢出ヶ鼻は、王子ヶ岳・新割山の尾根が海に沿って東に流れる矢出山の裾に、ちょこんとハミ出したふくらみである。そこへ行く途中にも、ふたつみっつ岩場が道路脇にあったりするが、要するに山の一部がそこだけ海岸に転がり落ちた風情である。
いや。矢出ヶ鼻は、海岸の岩場を見ると、転がり落ちたというより、元の岬が長年の波浪に洗われて、土の部分がすっかり流れ出し、岩だけが残った、そんな感じである。
沖の円錐形の小島も、岩で残ったという趣があるが、この島を見ていると、讃岐の山をすぐ連想する。
大槌島というこの島は、実は岡山県と香川県の県境に使われている。おもしろいことにというか、義理堅いことにというか、島の中央が県境で南北にきっちり仕切られているので、ここから見えている円錐形の半分は岡山県だが、向こう側半分は香川県なのだ。
もちろん、その背景の山並みは、東(左)が高松市、西(右)が五色台の坂出市。右端のところが、香川県坂出市王越町乃生の乃生岬に当たる。
矢出ヶ鼻の道路脇には、駐車スペースがあって、東隣の鼻操鼻と見えている渋川海岸と合わせ技で、瀬戸内海国立公園の看板が立っている。これまで、ほかでは「王子ヶ岳」という表示が多いので、そう書いていたが、どうやらお役所的には「が」にしたいらしい。国土地理院も「が」だが、こっちのほう促音表記で「が」が小さく表示してある。しかし、これで統一するにはなかなか困難がある。濁音の小さい促音文字「が」は、原則的に使われないことになっているとして、このコンピュータ時代、文字がないのだ。(余談である。前にdotenouenookuraさんとのコメントのやりとりで書いていたが、内田百閒の「閒」のように、制約があってもコンピュータ時代だからこそいろんな文字が使えるようにできるはずなのに、いまだに事実は逆であるというのは、文科省・文化庁その他大勢の怠慢だろう。ただ、2000年から国語審議会も表外漢字に手をつけはじめている。今も文化審議会で新常用漢字表の検討も始まっている。そこでも字体を統一せよとか議論しているらしいが、でんでんむしは、役人がやりたがる下手な統一は、コンピュータ時代には余計なことだと思っている。言葉と文字は、もっとイキイキと泳がせたい、というのが本音。)
しかたがないので、玉野市も大きい「が」で間に合わせている。民間ではめんどくさいので、「国民宿舎王子が岳」「下電王子ヶ岳線」ともう好き勝手…そんなところか。
そう。ここはもう、倉敷市ではなく、玉野市。
海岸をめぐる道路に境界の標識が立っている。その市境の辺りが緩いカーブの丸い出っ張りなので、岬というならば、山が転げ落ちてきただけのような矢出ヶ鼻よりも、こっちのほうがまだそれらしいかも。
この王子ヶ岳という山が、花崗岩の大きな露頭を積み上げたような、独特の山容をしており、その様子の一部は、入り口の広い緑の階段の真ん中にも岩が鎮座する国民宿舎のところからも垣間見える。ついでに。国民宿舎の食堂からは、こんな眺めも…。
岩。花崗岩こそ、この地域の名物のひとつなのだ。
山の上には、レジャ−施設もあって、そこから降りてきたらしいパラグライダーをくっつけた人も、海岸にいた。
数年前からNHKで、パラグライダーにカメラを載せて、空中散歩をするさまを見せる番組をたまに流しているが、あれは一度やってみたいような…。
34度27分23.59秒 133度53分37.81秒
中国地方(2009/08/13 訪問)
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