447 熊之鼻=下閉伊郡岩泉町小本(岩手県)日本初発見の恐竜の化石もし茂師竜よモシリュウよ… [岬めぐり]
北リアスの海岸は、断崖絶壁の間のところどころに川が流れ、谷ができ、そこの周囲にだけぽつぽつと集落ができている。小本(おもと)も、そんな場所のひとつである。
熊之鼻は、その小本の南にある小さな岬である。しかし、そこには名前だけでなく灯台までくっついており、ごていねいに擬木の柵に囲まれた展望台まで整備されている。
45号線からははずれて、細い道をくねくね登っていかなければならない場所で、周囲には人の気配もないが、そこに唐突に展望台が現われる。
ここもあたりの地形の例外ではなく、海を遙か下に望む崖の上の岬だが、樹木が生い茂っていて、灯台も展望台より一段下の木の間に隠れている。
これで灯台の役目を果たすことができるのだろうかと、一瞬疑ってしまいそうだが、海に向いては開けているのだろう。
木々の間からは、かすかに洗濯板状の海岸の岩場も、ちらちらと見えるが、比較的展望台というにふさわしいのは、灯台側より北に向いた小本港の方向であろう。ただ、それもまた深い霧の中であった。
宮沢賢治に憧れたのは中学生の頃で、その時期に多くの作品を読んだという記憶がある。いちばん好きだったのが『雨ニモマケズ』だというのは平凡で当たり前で人並み過ぎて、へそまがりでもなんでもないが、純真な中学生にとっては、珠玉の言葉と思えた。その全文を原稿用紙に写し取って、机の前に張り出して、毎日読んでいた。
次に好きだったのは『グスコーブドリの伝記』で、でんでんむしが今日に至るまで、専門的な勉強を何一つしないくせに、この大地の成り立ちや不思議にシロート的興味を持ち続けている原点はここにある。
『楢ノ木大学士の野宿』は、本で読んだという記憶がないが、花巻の宮沢賢治記念館を訪ねたときに知った。楢ノ木大学士が野宿の夢で岩や石の話を聞き、白亜紀の地層から恐竜の足跡を発見する…という話を、賢治が書いた時代には、まだ日本では恐竜の化石は見つかっていなかった。そこで、未来を予見した作品として、また彼がどうしてこんな作品を書いたのか書けたのか、一部で不思議がられてきた。
この作品は、今では青空文庫からダウンロードできるらしい。
もって回っているが、実はその恐竜の化石が、実際に発見されたのが、この熊之鼻の南、茂師である。賢治の予言から約半世紀経った1978(昭和53)年になって、日本で初めて発見された恐竜の化石は、モシリュウ(茂師竜)と名付けられた。
茂師海岸を見下ろす高台には、それを示す絵地図の案内看板が立っていたのだが、それはもう一番上の文字が判読できないほど、はげかかっていた。この絵地図を見ていると、また新たな疑問がわいてくる。
絵地図の左端のところには灯台のある岬と向かい合う別の出っ張りに「熊之鼻」と表示してある。そこは、前の写真、霧の中の岬にあたる。ところが、国土地理院の地図では、灯台のあるところが「熊之鼻」だといっている。この場合は、やはりお役所の権威のほうを尊重すべきなのであろう。
なぜなら、観光ガイドブックなどでもままあることだが、こういう絵地図などを描く人自身が、実際に現地に行ってみて描いているわけではないことが多い。渡された資料を使って離れた場所で描いた、そしてまた依頼した人もその内容を充分に確認しないでスルーしてしまう。そんなことも、世の中には多いのだ。
岩手県の岬めぐりは、今回が初めてなのだが、宮沢賢治については、なにか前にも書いた記憶があった。それは、偶然が重なり、「きららか」という言葉からの連想がうかんだ秋田県の岬でのことだったが、岬めぐりと地学・地質学は切っても切れない関係であり、しばしばこの天才のことが思われるのである。
39度50分23.78秒 141度58分48.92秒
東北地方(2009/06/30 訪問)
けた外れに広範な知識と発想──たしかに宮沢うじは天才でござるな。拙者も幼少の頃、再現された「恐竜の骨格」を上野の科学博物館で見たのでござるが、恥ずかしながら何の変化も生じなんだ。
しかしながら、馬齢を重ねるにつれて近年とみに賢くなり“真理”に到達し、またさまざまな“発見”をすること頻繁になりもうした。ここだけの話、最新の一大発見を披瀝すればすなはち──わが国は世界に冠たる“岬大国”である。
「データベース1」によると、日本の岬の総数は3703という。当然ながらこれは岬・崎・鼻などと「名前がある」もので、かつ貴殿が認知されたものであらう。
申すまでもなく、岬の名前はヒトがつける。そして全国にあまねくヒトがいるわが国においては、ささやかな出っぱり・ふくらみに至るまでこまめに名をつける。
特大世界地図をつらつら眺めてみれば歴然、大きなPeninsulaこそ目だつが、Cape・Horn・Pointはさほど多くない。大陸なぞはでかいばかりで、かようにデリケートな綾はない。もちろん富士五湖の例からして、アメリカ五大湖にも岬はあるじゃろう。しかしながら、世界には海に接しない国も多いのであるからして、全体が島国のうえ多くの島嶼部を擁するわが国ほどの岬数を誇れる国は他にあるまいて……。
by dotenoueno-okura (2009-07-17 10:07)
@日本が世界に冠たる「岬大国」であることは事実です。なにしろ、海岸線が長い! そういえば、数週間前のことですが、書原(行きつけの本屋の名前)で、『海岸線の歴史』(ミシマ社)という本を、衝動買いしてしまいました。
ところが、これがちょっとガッカリ本でね。
まあ、中身をよく確かめずに、パッと買ってしまったのが悪いのだけれど、タイトルから勝手な思い込みをしてしまった。(反省!)
でもね、データベースの掘り下げも、また少しやってみようと考えているのですよ。
夏休みだしね。
全国のぼっちゃん・おじょうちゃんたちの“夏休み自由研究”の材料に…はならんか?
まあ、それはともかく、夏枯れの時期を々乗り切るかも、考えながら…。
しかし、なんですぜ、特大世界地図では。そりゃ岬はCape・Horn・Pointともに、そんなに表示されませんぜ…。もっと国別の細かい地図でないと…。
by dendenmushi (2009-07-17 17:29)