425 番所ノ鼻=阿久根市脇本(鹿児島県)人はどこまで遠くを見通すことができるのか [岬めぐり]
黒之浜というのはこの辺りではちょっと大きな集落で、そこへ向かう道を途中まで降りてまた一山越えるところで、乗客のいない一台の路線バスが坂を上ってくるのに出合った。そうか、ここにはバスも来るのか。
あれ、どこ行きだったのだろう。写真撮っておけばよかったのにね。懸命に歩いているときには、案外そういう余裕がないものだ。
道がいくつかの方向に分かれている。なくする前のうろおぼえの地図では、確か番所ノ鼻の方角はこっちのはずだが…。たまたま(めったにないことに)人がいたのでこういうときは聞くに限る。
「すみません。ちょっとお尋ねしますが、深田へ行くにはこの道でいいんでしょうか?」
普通、岬の名前を言っても、地元民でも通じないことが多い。これは、過去の経験から学んだことだ。しかし、よく「深田」という集落の名前を覚えていたもんだね。
仕事をしているふうでもないその人は、よく聞き取れない調子で、身振り手振りを交えて教えてくれた。やっぱりこっちだ。お礼を言って坂道を登る。後ろから、またその人が声をあげ手を差し出しながら教えてくれるので、振り返ってまた帽子をとって手を振り返す…。
黒之浜の南に緩やかにうねって続く丘陵は、岬の落ちるところまで畑が広がっている。作物はさまざまで、とくにこれが名産というものはないようだ。
農道があるが、すぐ畑で行き止まりになり、なかなか番所ノ鼻の上とおぼしき辺りまでは、近づくことができない。おまけに地図をなくしてしまったので、目印に乏しい畑の中で、どこにいるのかわからなくなる。いや、これでは地図があったとしても、きっと同じことだっただろう。
ここからでも、南の海岸のいちばん遠くである、30数キロ先の川内市の天狗鼻まで見えるのではないか。あるいは、70数キロ先の鹿児島西側最後の出っ張りである、野間岬まで見通せるのではない。
そう思ってはみたが、実はなかなかそこまでは遠望できない。“見えるのではないか”と思うのは、地図を見慣れてその鳥か飛行機になったような視点を、頭の中に作り上げてしまっているからだ。
ここから実際に見えているのは、せいぜい5キロほど南の阿久根大島付近でしかないのだ。
しかし、これはどうだろう。これは黒之瀬戸から番所ノ鼻方面を遠望したものだが、ここには西端に少し高い山の出っ張りが見える。阿久根大島には、こんな高い山はない。すると、やはりこれは川内の天狗鼻なのか? いや、やっぱりそんなことはないだろう。天狗鼻の山は100メートルを越えているはずで、阿久根大島のほうの山は40メートルほどしかない(これは後で、地図で確認したこと)。それに距離を加えて判断すると…。望遠だからそう見えるだけなのだろうか。
遠くを見通すのはなかなかむずかしい。
少し大きな舗装道路まで戻って、深田の集落をめざして下って行く。
途中には、白壁の塀を巡らした立派な家がある。
地方を歩いていると、こういうことはどこへ行ってもよくあることなので、都会生活者の目から見れば、決して“地方は貧しい”というばかりではないと思わせる。
目の前に広がってくるのは、番所ノ鼻と愛宕鼻という二つの岬に囲まれた、脇本浜の静かな入江である。深田の港まで降りてしばらく歩くと、番所ノ鼻はやっとその姿を現わす。この先の背景に浮かぶ山波は、あのきびなごの甑島であろう。それくらいの見当は、地図がなくてもつくのだけれど…。
脇本の集落の中心部に寄ったところには、寺島というまあるい島があるのを右手に見ながら、町の中に近づいて行く。
▼国土地理院 「地理院地図」
32度4分19.11秒 130度10分59.38秒
九州地方(2009/03/17 訪問)
あれ、どこ行きだったのだろう。写真撮っておけばよかったのにね。懸命に歩いているときには、案外そういう余裕がないものだ。
道がいくつかの方向に分かれている。なくする前のうろおぼえの地図では、確か番所ノ鼻の方角はこっちのはずだが…。たまたま(めったにないことに)人がいたのでこういうときは聞くに限る。
「すみません。ちょっとお尋ねしますが、深田へ行くにはこの道でいいんでしょうか?」
普通、岬の名前を言っても、地元民でも通じないことが多い。これは、過去の経験から学んだことだ。しかし、よく「深田」という集落の名前を覚えていたもんだね。
仕事をしているふうでもないその人は、よく聞き取れない調子で、身振り手振りを交えて教えてくれた。やっぱりこっちだ。お礼を言って坂道を登る。後ろから、またその人が声をあげ手を差し出しながら教えてくれるので、振り返ってまた帽子をとって手を振り返す…。
黒之浜の南に緩やかにうねって続く丘陵は、岬の落ちるところまで畑が広がっている。作物はさまざまで、とくにこれが名産というものはないようだ。
農道があるが、すぐ畑で行き止まりになり、なかなか番所ノ鼻の上とおぼしき辺りまでは、近づくことができない。おまけに地図をなくしてしまったので、目印に乏しい畑の中で、どこにいるのかわからなくなる。いや、これでは地図があったとしても、きっと同じことだっただろう。
ここからでも、南の海岸のいちばん遠くである、30数キロ先の川内市の天狗鼻まで見えるのではないか。あるいは、70数キロ先の鹿児島西側最後の出っ張りである、野間岬まで見通せるのではない。
そう思ってはみたが、実はなかなかそこまでは遠望できない。“見えるのではないか”と思うのは、地図を見慣れてその鳥か飛行機になったような視点を、頭の中に作り上げてしまっているからだ。
ここから実際に見えているのは、せいぜい5キロほど南の阿久根大島付近でしかないのだ。
しかし、これはどうだろう。これは黒之瀬戸から番所ノ鼻方面を遠望したものだが、ここには西端に少し高い山の出っ張りが見える。阿久根大島には、こんな高い山はない。すると、やはりこれは川内の天狗鼻なのか? いや、やっぱりそんなことはないだろう。天狗鼻の山は100メートルを越えているはずで、阿久根大島のほうの山は40メートルほどしかない(これは後で、地図で確認したこと)。それに距離を加えて判断すると…。望遠だからそう見えるだけなのだろうか。
遠くを見通すのはなかなかむずかしい。
少し大きな舗装道路まで戻って、深田の集落をめざして下って行く。
途中には、白壁の塀を巡らした立派な家がある。
地方を歩いていると、こういうことはどこへ行ってもよくあることなので、都会生活者の目から見れば、決して“地方は貧しい”というばかりではないと思わせる。
目の前に広がってくるのは、番所ノ鼻と愛宕鼻という二つの岬に囲まれた、脇本浜の静かな入江である。深田の港まで降りてしばらく歩くと、番所ノ鼻はやっとその姿を現わす。この先の背景に浮かぶ山波は、あのきびなごの甑島であろう。それくらいの見当は、地図がなくてもつくのだけれど…。
脇本の集落の中心部に寄ったところには、寺島というまあるい島があるのを右手に見ながら、町の中に近づいて行く。
▼国土地理院 「地理院地図」
32度4分19.11秒 130度10分59.38秒
九州地方(2009/03/17 訪問)
タグ:鹿児島県
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