385 城ヶ崎＝和歌山市深山（和歌山県）ここは地学・地質学の名所らしいですよ

　“城ヶ崎”といえば、ほとんどの人が（とくに関東の人は）、東伊豆の城ヶ崎海岸のことを思い浮かべることだろう。そこは観光地でもあり、よく三流テレビドラマのロケ地として使われ、いかなる理由があってか、寒そうな吊橋の上や崖の上では、容疑者や素人探偵など登場人物達が延々としゃべくったりしている。


　ここ、和歌山市の深山湾のすぐ南に飛び出している城ヶ崎は、ドラマの舞台にもならないし、有名な観光地というわけでもないが、地学・地質学を学ぶ人々にとっては、貴重なフィールドワークの場所として有名らしい。
　というのも、中央構造線に沿って堆積した、中生代白亜紀の特徴ある地層である和泉層群の岬だからである。いろいろな地層を見ても岩を見ても、門外漢にはなんのことやら、どんなことやらわからない。岩を見て、これはいつの時代にどうやってできた、なんという岩かが、即座にわかるほどの知識があれば、岬めぐりにもさらに別の楽しさも加わろうというものだが、残念なことだ。

　だが、岬の先端に立っている歌碑のような石が、三波石であることくらいはわかる。この石は、群馬県は藤岡市の神流川（これがあの御巣鷹山を源流として流れる川）と支流の三波川流域を主な産地とし、庭石でよく使われている石だ。実は三波川帯という変成岩の地層も、藤岡市だけでなく幅広く分布していて、この和歌山市の南部一帯から四国までにも広がっている。だから、三波石がここに立っていても不思議ではないが、この碑が字は読めず説明もなく、なんのことやらさっぱりわからないのは不思議である。

　砂岩と泥岩が重層的に堆積したという岬の土は、赤い色をしている。ここも、岬の先端からそうした古い地層が露出しているらしいが、ちょうど満ち潮で、ほとんどが海に沈んでいる。城ヶ崎と同じ崖は、北の休暇村のある出っ張りの崖と続いているようだ。その深山湾のほうから見ると岬へと続く道があるが、南の加太湾のほうから見た岬とは、ずいぶん印象が違う。



　下に掲げた国土地理院の地図では、この岬に大きな建物の表示がある。しかし、そんな建物はもうなく、ただ空地はあった。そのかわり、大きな頑丈な丸太でできた東屋が建っている。比較的広く開けた岬の縁は柵で囲まれており、強い風が吹いていた。柵のボルトの穴が笛になってか、風が鳴くようにヒューヒューと音がする。

　友ヶ島の彼方に薄く続く淡路島の諭鶴羽山地を眺めながらその音に耳を傾けていると、古くは約1億4300万年前から、新しいところでも約6500万年前の中生代白亜紀という、気の遠くなるような時空の彼方から、それが聞こえているかのような錯覚にとらわれ、想像が広がっていく。
　白亜紀といえば、この岬めぐりでも茨城県のどこか（174 磯崎＝勝田（茨城県）白亜紀は遠い遠いかなた）ででてきたが、想像の世界では現代のわれわれにも、数々のSFX映画などで、たくさんイメージがつくられている時代である。大きな被子植物の間を恐竜が闊歩し、翼竜が飛んでいくさまは、誰でもが想像できる。
　だが、その末期に巨大な隕石の衝突によって、“地球上で二番目の大絶滅”が起こったこと、われわれほ乳類の先祖が、その厳しい時代を生き抜いてくれたおかげで、今の人類もあることなどは、なかなか想像がし難いことに違いない。

▼国土地理院　「地理院地図」
34度17分7.64秒 135度4分5.22秒

近畿地方（2009/01/23　訪問）

タグ：和歌山県 地質学

コメント 2

地学・地質学といえばホームズですね。刑事や警部ではなく、探偵には言語学とか特技を持つユニークなのがいます。迂遠なだけに興味深いです。
拙者、初めて関西に滞在した時、ふつうの場所のふつうの土が黒くないのを“発見”してカルチャーショックを覚えたものです。また小学生のみぎり「大昔には始祖鳥が飛び、　系統樹が繁っていた」とやって失敗した記憶があります。
by knaito57 (2009-03-02 08:46) 

＠やっぱりね、イギリス人はそういう専門的な興味を趣味にする人が多くいたようですね。
　大昔のヨーロッパ旅行で、化石を売る専門店があったのには驚きました。アンモナイトの化石、欲しかったんだけど…。
　でんでんむしは、関東に来た時、土が黒いのに驚きました。この黒土に慣れるのに、だいぶ時間がかかった。
by dendenmushi (2009-03-03 07:32)