310 大黒崎=熱海市泉元門川分(静岡県)県境をつくる千歳川の南は熱海であって湯河原でなく [岬めぐり]
県境の川は、大河である必要はない。小さな溝であっても、それが大地に刻まれたわかりやすい線であれば、充分にその役目を果たす。
下流では静岡県と神奈川県の県境をつくる千歳川は、上流になってその役目から解放されると、藤木川と名を変える。県境の河口に立って、静岡県側を眺めれば、マンションのような建物が並んだ岬が見える。そこが大黒崎である。



海岸には、ぎりぎりまでせまってきた山が張り出し、道路がコンクリートとテトラポットの護岸に沿って道がついている。“熱海ビーチライン”という有料道路である。無料の道路は、そのさらに上の高いところを走っているので、眺めは無料のほうがいいのではなだろうかと、勝手に想像していて、熱海からの帰りに何度かこの路線バスに乗ろうと試みたのだが、そのたびにダイヤとタイミングが合わず、乗ることができなかった。今回もまたそうで、つまりは本数が少ない。
しかたがないので、今回はもうバスをあきらめて湯河原まで電車で行き、その海岸から眺めることにしたのだ。
どこの市町村でも、河口や湾口の境界付近には、だいたい下水処理場などがあるもので、湯河原も例外ではない。それにプールが併設されていて、夏休みに入ったばかりのこどもたちの喜色に溢れた歓声が盛り上がっている。
しかし、これだけ長い海岸線をもちながら、そこに住み暮すこどもたちは、一度もその海で泳いだり遊んだりすることができない。これは、大いなる不幸ではないのだろうか。大黒崎と反対側の真鶴半島を眺めながら、そう思ったのだが、そういう場合疑問への答えは用意されている。「海水浴場へ行きなさい」ということなのだろう。

大黒崎のある辺りは、熱海市泉元門川分という、なにやらいわくありげな住居表示で、これはビーチラインに沿って伊豆山まで細長く続いている。その山よりの隣は熱海市泉という地区である。
湯河原の駅に降りても、さっぱり温泉町らしい風情はなく、ただの地方の町なのだが、温泉街は千歳川に沿って連なっている。新幹線よりもさらに奥、河口から約3キロほど遡ったあたりがその中心になる。この温泉街の名を“伊豆湯河原温泉”という。神奈川県はすでに伊豆ではないのだから、ムリに僭称しなくてもよさそうなものだ、と思っていたのだが、これにも実はもっと深ーい訳があった。
湯河原温泉街は、千歳川に沿って伸びているといったが、その一部は川を越えて右岸にも広がっている。熱海市の泉地区は山また山なのだが、その湯河原温泉郷の中心の対岸だけ、傾斜が緩やかになったところがあり、そこにも温泉街がつながっている。ただし、県境を越えて…。
自然の地形を利用した県境はわかりやすいが、そこに暮す人間の思惑や利害が絡んでくると、とたんに複雑になる。
熱海市は、そこに泉支所をおいて、住民サービスに遺漏なきよう努めているらしいが、なにしろそこは静岡県の熱海とは完全に山で隔てられ、神奈川県の湯河原とすべてかくっついている。何度か、越境合併の話もあったらしいが、実現には至っていない。
大黒崎のある熱海市泉元門川分も、“泉”と名がついているが、山また山の泉地区とは事情が異なるのかも知れず、ここは別に神奈川県になることを欲してはいないようだ。



千歳川の河口に立って、しばしそんなことに思いを馳せていたが、ぼつぼつ神輿を上げなければならない。これから、小田原を経由して箱根へ行くのだ。

“東京の奥座敷”という形容には、あまりさわやかさを感じない。だが、もし熱海と箱根がなかったら、東京人の生活から多くの襞が失われたことであろう。それは事実である。
▼国土地理院 「地理院地図」
35度7分51.22秒 139度6分30.60秒

東海地方(2008/07/22 訪問)
下流では静岡県と神奈川県の県境をつくる千歳川は、上流になってその役目から解放されると、藤木川と名を変える。県境の河口に立って、静岡県側を眺めれば、マンションのような建物が並んだ岬が見える。そこが大黒崎である。



海岸には、ぎりぎりまでせまってきた山が張り出し、道路がコンクリートとテトラポットの護岸に沿って道がついている。“熱海ビーチライン”という有料道路である。無料の道路は、そのさらに上の高いところを走っているので、眺めは無料のほうがいいのではなだろうかと、勝手に想像していて、熱海からの帰りに何度かこの路線バスに乗ろうと試みたのだが、そのたびにダイヤとタイミングが合わず、乗ることができなかった。今回もまたそうで、つまりは本数が少ない。
しかたがないので、今回はもうバスをあきらめて湯河原まで電車で行き、その海岸から眺めることにしたのだ。
どこの市町村でも、河口や湾口の境界付近には、だいたい下水処理場などがあるもので、湯河原も例外ではない。それにプールが併設されていて、夏休みに入ったばかりのこどもたちの喜色に溢れた歓声が盛り上がっている。
しかし、これだけ長い海岸線をもちながら、そこに住み暮すこどもたちは、一度もその海で泳いだり遊んだりすることができない。これは、大いなる不幸ではないのだろうか。大黒崎と反対側の真鶴半島を眺めながら、そう思ったのだが、そういう場合疑問への答えは用意されている。「海水浴場へ行きなさい」ということなのだろう。

大黒崎のある辺りは、熱海市泉元門川分という、なにやらいわくありげな住居表示で、これはビーチラインに沿って伊豆山まで細長く続いている。その山よりの隣は熱海市泉という地区である。
湯河原の駅に降りても、さっぱり温泉町らしい風情はなく、ただの地方の町なのだが、温泉街は千歳川に沿って連なっている。新幹線よりもさらに奥、河口から約3キロほど遡ったあたりがその中心になる。この温泉街の名を“伊豆湯河原温泉”という。神奈川県はすでに伊豆ではないのだから、ムリに僭称しなくてもよさそうなものだ、と思っていたのだが、これにも実はもっと深ーい訳があった。
湯河原温泉街は、千歳川に沿って伸びているといったが、その一部は川を越えて右岸にも広がっている。熱海市の泉地区は山また山なのだが、その湯河原温泉郷の中心の対岸だけ、傾斜が緩やかになったところがあり、そこにも温泉街がつながっている。ただし、県境を越えて…。
自然の地形を利用した県境はわかりやすいが、そこに暮す人間の思惑や利害が絡んでくると、とたんに複雑になる。
熱海市は、そこに泉支所をおいて、住民サービスに遺漏なきよう努めているらしいが、なにしろそこは静岡県の熱海とは完全に山で隔てられ、神奈川県の湯河原とすべてかくっついている。何度か、越境合併の話もあったらしいが、実現には至っていない。
大黒崎のある熱海市泉元門川分も、“泉”と名がついているが、山また山の泉地区とは事情が異なるのかも知れず、ここは別に神奈川県になることを欲してはいないようだ。



千歳川の河口に立って、しばしそんなことに思いを馳せていたが、ぼつぼつ神輿を上げなければならない。これから、小田原を経由して箱根へ行くのだ。

“東京の奥座敷”という形容には、あまりさわやかさを感じない。だが、もし熱海と箱根がなかったら、東京人の生活から多くの襞が失われたことであろう。それは事実である。
▼国土地理院 「地理院地図」
35度7分51.22秒 139度6分30.60秒




タグ:静岡県
2008-09-10 07:53
きた!みた!印(6)
コメント(2)
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いい景色ですね。
by 飛騨の忍者 ぼぼ影 (2008-09-10 14:58)
@あちこち歩いていると、景色にはいろいろな見方があることに気がつきます。必ずしも、絵はがきのような景色だけがいい景色ともいえないように思えてきます。
飛騨にも、そんな景色がたくさんあるでしょうね。
by dendenmushi (2008-09-12 07:31)