287 鯵ヶ崎=鶴岡市小波渡(山形県)工事中のトンネルを工事車両で送ってもらい由良から三瀬 [岬めぐり]
「庄内地方」という地域名が指し示す範囲は意外に広くて、山形県の日本海沿岸のすべてを網羅している。どちらかというと、その南部を中心とした地域だけを指すものと、長い間思い違いをしていた。これは本来、地域名であって、「庄内藩」とか、「庄内平野」「庄内米」のように使われていたが、現在では、最上川のそばに「庄内町」というのができている。
庄内平野は広い。田圃の中にところどころ農家が屋根を寄せ合って固まっているという景色が、どこまでも広がっていて、その南の山に近いところに、鶴岡市街地が展開する。その東を流れる赤川を遡って行くと月山の懐に回り込むようになっており、南西部は1000メートルを越す摩耶山を主峰とする山塊が、幾重にも複雑な襞を織りなしつつ、日本海に落ちている。その北のはずれ湯野浜から温海にかけて連なる山々は300メートルほどしかないものの、庄内平野と海をしっかりと隔てている。
そのため、湯野浜や加茂へ向かうバスは、加茂坂の峠をトンネルで越えて往来することになる。酒田から鶴岡までは大きく内陸部を迂回するように走っているJR羽越本線は、羽前大山、羽前水沢、そして三瀬ときて日本海に戻る。加茂も由良も三瀬も、田園地帯とは隔絶した、山々に囲まれた海岸沿いにわずかに広がる平地に、なんとかかんとかできた集落が固まっている。
ご存知藤沢周平の多くの作品に出てくる“海坂藩”は、自身の故郷である「庄内藩」がモデルになっているというのは、つとに有名であるが、その主な舞台は田圃の真ん中ではなく、多くの場合山を伴うところから、おそらくはこのあたりのことを思い描きながら、作家は筆を進めたのであろう。
そんなことを思いながら、あつみ温泉行きの庄内交通バスの窓から景色を眺めていく。



海水浴場がある三瀬の浜に近いところでバスを降り、海岸を歩いて行くと、鯵ヶ崎が見えてきた。三瀬もそうだが、この付近の海でも大きな岩が目立つ。ここから日本海沿岸を下って新潟の村上に近いところまでは、大きな岩が海岸にごろごろしていて、それが海岸の特色になっている、といってもよい。だが、その多くは岬とは結びつかないのである。


羽越本線は長いトンネルで抜けているが、国道7号線も鯵ヶ崎のところはトンネルで越えて行かなければならないらしい。
近づいて行くと、かなり大規模なトンネルの改修工事を行なっているようだ。赤い旗をもって、光るラインが派手についたジャケットのようなものを着たおじさんが声を掛けてきた。トンネルを越えるつもりかというので、そうだと答えると、工事中で歩行者は通れないので、トラックで送るという。

なるほど、先には黄色い小型トラックが止まって客待ちしている。なぜトラックなのかというと、自転車で通る人の場合、それを載せて運ぶ必要があるからなのだという。


…というわけで、鯵ヶ崎はめずらしい体験をしながら、通り過ぎていった。運転しているのはまだ若い人で、「こんなとこ徒歩でとぼとぼ歩いて行く人なんてそういないでしょうね」というと、さすがに「いないです」とは明言しなかったものの、「たまに自転車で通る人がいますから」という。トラックを降りたところは、工事区域をはずれたところで、もう鯵ヶ崎は振り返っても見えなかった。
▼国土地理院 「地理院地図」
38度42分10.48秒 139度39分15.39秒

東北地方(2008/06/20 訪問)
庄内平野は広い。田圃の中にところどころ農家が屋根を寄せ合って固まっているという景色が、どこまでも広がっていて、その南の山に近いところに、鶴岡市街地が展開する。その東を流れる赤川を遡って行くと月山の懐に回り込むようになっており、南西部は1000メートルを越す摩耶山を主峰とする山塊が、幾重にも複雑な襞を織りなしつつ、日本海に落ちている。その北のはずれ湯野浜から温海にかけて連なる山々は300メートルほどしかないものの、庄内平野と海をしっかりと隔てている。
そのため、湯野浜や加茂へ向かうバスは、加茂坂の峠をトンネルで越えて往来することになる。酒田から鶴岡までは大きく内陸部を迂回するように走っているJR羽越本線は、羽前大山、羽前水沢、そして三瀬ときて日本海に戻る。加茂も由良も三瀬も、田園地帯とは隔絶した、山々に囲まれた海岸沿いにわずかに広がる平地に、なんとかかんとかできた集落が固まっている。
ご存知藤沢周平の多くの作品に出てくる“海坂藩”は、自身の故郷である「庄内藩」がモデルになっているというのは、つとに有名であるが、その主な舞台は田圃の真ん中ではなく、多くの場合山を伴うところから、おそらくはこのあたりのことを思い描きながら、作家は筆を進めたのであろう。
そんなことを思いながら、あつみ温泉行きの庄内交通バスの窓から景色を眺めていく。



海水浴場がある三瀬の浜に近いところでバスを降り、海岸を歩いて行くと、鯵ヶ崎が見えてきた。三瀬もそうだが、この付近の海でも大きな岩が目立つ。ここから日本海沿岸を下って新潟の村上に近いところまでは、大きな岩が海岸にごろごろしていて、それが海岸の特色になっている、といってもよい。だが、その多くは岬とは結びつかないのである。


羽越本線は長いトンネルで抜けているが、国道7号線も鯵ヶ崎のところはトンネルで越えて行かなければならないらしい。
近づいて行くと、かなり大規模なトンネルの改修工事を行なっているようだ。赤い旗をもって、光るラインが派手についたジャケットのようなものを着たおじさんが声を掛けてきた。トンネルを越えるつもりかというので、そうだと答えると、工事中で歩行者は通れないので、トラックで送るという。

なるほど、先には黄色い小型トラックが止まって客待ちしている。なぜトラックなのかというと、自転車で通る人の場合、それを載せて運ぶ必要があるからなのだという。


…というわけで、鯵ヶ崎はめずらしい体験をしながら、通り過ぎていった。運転しているのはまだ若い人で、「こんなとこ徒歩でとぼとぼ歩いて行く人なんてそういないでしょうね」というと、さすがに「いないです」とは明言しなかったものの、「たまに自転車で通る人がいますから」という。トラックを降りたところは、工事区域をはずれたところで、もう鯵ヶ崎は振り返っても見えなかった。
▼国土地理院 「地理院地図」
38度42分10.48秒 139度39分15.39秒




タグ:山形県
2008-07-22 07:28
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庄内、月山といふ字を眺めていると、たしかにいろんなことが思い浮かびます。でもやはり、庄内といえばコメですなあ。
自分でいふのもおこがましいが、拙者“一を見て十を知る”タチゆえ「崖からすぐ海で辺りは岩場」というこの画像は、いかにも日本海側らしいと納得しています。
鰺ヶ崎では珍体験でしたね。工事中でクルマは通れなくても自転車や徒歩ならOKが常識なのに、反対にヒトも自転車もクルマに載せてしまう逆転の発想がすごい。
それにしても──「自転車でのろのろ」とか「とぼとぼと徒歩で」といった類型かつ差別的な表現には抵抗あり。徒歩といわず“健脚”“速歩”などの表現を普及したいものです。
by NO NAME (2008-07-24 08:07)
@そうですかあ〜(笑い) でんでんむし的には、「のろのろ」「とぼとぼ」は、岬めぐりにおけるプラスイメージで使っているのですがねえ。
どちらもスローライフで、ゆっくりのんびりいこうよという意味合いをこめていますし、「とぼとぼ」も、大勢で人の行く道を行かず一人我が道をマイペースで行くという…。
こんな使い方をすると、日本語を乱しているとお叱りを受けるかな?
「美しい日本語が鬼籍に入る」(今日7/26の「天声人語」)といえば、参勤の天気予報ですよ。「夜のはじめ頃」というのが多用されるようになりましたけど、これが「宵の口」じゃわからんというので置き換えたヤツです。
by dendenmushi (2008-07-26 07:32)
こんにちは。地元民なのですが失礼します。
トンネルをトラックで行けたのもすてきな体験と思いますが、一応。。。本来の鯵ヶ崎はこの国道沿いではなく、旧道にあります。写真でもトンネルの上に小さい屋根みたいなのが見えると思いますが、こちらになります。この道は笠取峠といって源義経も通ったらしいです。新・奥の細道 のルートで、そのまま小波渡まで行けます。車は通れないのですが、徒歩なら問題ありません。
また今度きてくださいね!
by 通りすがりの地元民 (2009-04-07 18:17)
@「地元民」さん、ご教示ありがとうございました。
なるほど、上に旧道があったのですか。ま、考えてみりゃそうですね。昔はトンネルはなかったのだから。
しかし、このあたりの海岸もすばらしかった。いまでもちゃんと、その景色が甦ってきます。
また、行ってみたいですが、今度は湯野浜温泉とか由良温泉に泊まりたいです。
by dendenmushi (2009-04-08 07:48)