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189 鵜島の鼻=北茨城市大津町(茨城県)タクシーで聞く三題噺 “デビ・筑波・石井” [岬めぐり]

 お客さん、どちらまで? あ、はいはいわかりました。どぶ汁ですか? いかがでした? そう、あれはね、ちょっと魚くさいのが特徴なんです。この店はね、デビ夫人も来たんですよ。アンコウもね、高くなりましてね。この上の方には民宿がいっぱいありますけど、みなさんよくおいでになります。これからがシーズンですからね。ええ、溫泉に入って、アンコウを、みなさんそのためにこられるんですよ。
 ほら、このあたりハマギクがたくさん咲いているでしょう。みごとでしょう。
 美術館は、お客さんもうおいでになった? そうですか、ここはすばらしいですね。そうですか、では今日はここは通過します。
 五浦もこのホテルが有名ですが…。ええっ? 以前断わられたことがある…そうでしたか。わりと団体さんも多いのでね、なかなか予約が取れないこともあるみたいです。そう、岡倉天心ですね。お客さんも? おいでになりましたか、六角堂。そうでしたか。
 でもね、ここのホテルの娘さんはね、日活の女優さんだったんですよ。そうですよ。グラマー女優で有名だった筑波久子さん、あの方がそうなんですよ。若い人は、知らないでしょうが…。ああ、お客さんはご存知。そうですか。われわれの年代でないと、知らないでしょうからね。
 ええ、ご健在ですよ。ときどき車に乗っていただきますよ。外国人の旦那さんと、いまもこのそばの…、ほらほら、ここここ。ここが筑波さんの家です。そう。ここ茨城の出身だから、芸名に「筑波」ってつけたんですよ。ご存知ありませんでしたか? そうなんですよ。
 あ、ここ。ここがホテルの社長さんのお宅です。ええ、すごい立派でしょう?
 ええーっと、岬はと。ここじゃないですか? ほら「五浦岬」って柱に書いてありますよ。この奥がそうですが。
 えっ、ここじゃない? そういう名前は地図には載っていない…んですか? あ、なるほど。そういえば、この柱も最近できたみたいですねえ。でも、行ってみる?
 じゃぁ、こちらで、待っている間に「鵜島の鼻」の場所は営業所に電話して聞いておきますよ。雨が降ってますから気をつけて…。

 お帰りなさい。そうでしたか、やっぱりこちらは六角堂のほうですか。「鵜島の鼻」わかりました。この先です。
 ここですね。ここですが、道路からしか見渡すことができませんねえ。

 いえいえ、どうぞごゆっくり。
 はい、わかりました。では、大津港駅まで…。
 ここが大津港です。写真撮りますか? あ、そうですか。では…。
 ええ、そうなんですよ。駅が港とはずいぶん離れていますのでね、よくお客さんに言われますよ。それに駅までの道が、入り組んでましてね。どうも、“わざと遠回りしてヘンな道を行ってるんじゃないか”と、疑われるお客さんもありますからね。ああ、お客さんはもう初めてじゃないから、そんなことは…。
 そうだ。でも、これご存知ないでしょう? 遠回りではありません。途中ですから前を通ってみますね。
 石井竜也さんの実家が、ここ大津なんですよ。そうそう、その『米米CLUB』の石井さんですよ。“カールスモーキー石井”? ああ、そんな芸名でしたね。よくご存知ですね、お客さん。映画撮ったり活躍してましたよね。あの人のお母さんが、なかなかの人でね、その血を受け継いだのかもしれませんね。
 路地を入って…。ほら、ここがそのお宅です。白くてモダンなしゃれた造りでしょう? 石井さんがご自分で設計されたそうですよ。
 おまんじゅうを、そこで作っていて、売っていたこともあるんですよ。そこがお店。いまは閉めているみたいですね。一時期は、女の子がわんさとやって来て、大変だったんですよ。

 駅が見えてきました。ほら煉瓦の倉庫とか残っていますけど、常磐炭坑の関連の炭坑が、この山の方にありましてね。この駅もそのためにできたんですよ。で、「大津港」という駅名になったのは、ずっと後になってかららしいですね。
 はい,着きました。お忘れ物のありませんように…。
     ◇
 この運転手さんの話し方は、もちろんこんなしゃべりではない。地元の言葉を標準語に翻訳して,書き起こしたものである。前の“「福島・栃木・茨城県の言語学的背景」に注目しています”というknaito57さんのコメントがあったが、でんでんむしには、茨城の独特の話し言葉は、とても再現できない。
 ここは特急は停まらないので、とにかく上り電車で土浦まで行って、食べ損ねたレンコンカレーを…。

 そんなことをぼんやりと思いながら電車に揺られて、終点のアナウンスに促されて降りたところは水戸。土浦ではなかった。レンコンカレーの代わりに出迎えてくれたのは、ご老公ご一行だった。

 これから土浦まで行って…とも考えたが、なんだか今日は雨疲れしてしまったような…。特急に乗って帰ることにした。

▼国土地理院 「地理院地図」
36度49分39.90秒 140度47分58.10秒
189うじまのはな-89.jpg
dendenmushi.gif関東地方(2007/10/26 訪問)

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タグ:茨城県
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きた!みた!印 7

コメント 4

knaito57

へえっ……筑波久子さんご出身の地でしたか。暗い青春時代で3本だて学割55円くらいで片端から見たから、いまだに各社の男優女優の名前がぞろぞろ出てきます。先日の宇津井健などもそのイメージがあって違和感がありました。グラマー女優も前田通子・久保奈保子・白木マリとかね。歳月は茫々。江戸川土手を歩きながら筑波山を遠望する身となった今、筑波久子の命名秘話を知って感慨無量(もっと贔屓にすればよかった)と思います。
アンコウ鍋ではやはり先代金馬(今の金馬は面白くない)の「のようなもの」を思い出しました。でも、どぶ汁とかレンコンカレーというのはあまりゾッとしませんなあ。
この辺の海岸線は意外に切り立っているんですね。私はなんとなくもっと低い海岸線の連続のように思いこんでいました。
by knaito57 (2007-11-29 15:56) 

オデコ

えっ・・オデコも筑波久子・の映画見ましたよ。
10代の頃は東京下町に住んでいました。
板塀に映画の宣伝用にポスターを張ると、ただ映画券が貰えた。
毎週映画三昧で楽しかった時代でした。
by オデコ (2007-11-29 20:57) 

dendenmushi

@ほんとにね、わたしもまさかこんなところでこんな名前に行き当たるとは、思いもしませんでした。まあね、筑波と言うからには、そっちのほうかなという感じはしていましたが…。
そうですよ。このあたりの岬は、切り立った崖という共通点があります。まあ、岬なんてどこもそんなもんだろう、という見方もあるでしょうが、明らかに似ています。
そのことはいわきの殿上崎あたりから十王まで、もちろん例外もありましょうが、ほぼ同じようです。
こういうところも、歩いてみるとなかなかおもしろいんです。
by dendenmushi (2007-11-30 08:04) 

dendenmushi

@オデコさんも、下町でしたか。でんでんむしは現役の下町(といえるんだろうな)ですよ。
筑波久子さんも見てましたか。若い頃のある時期、映画三昧…という点では、はからずも、オデコさん、knaito57さん、でんでんむし、みんな同じだったんですねえ。
オデコさんのブログには筑波山の写真がタイトルに使ってありますねえ。地元なんだ、きっと。
次は、岬めぐりは霞ヶ浦の残りです。ご期待ください。(なんもだれも期待なんかしとらん)
が、この週末来週は、ちょっとひとやすみの回が入る予定です。
by dendenmushi (2007-11-30 08:14) 

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