177 鶴首岬=日立市東町四丁目(茨城県)鶴の首とはどこからどこまで? [岬めぐり]
“鶴の首”とは、いったいどこからどこまでを指しているのだろう。「鶴首」といえば、一般にすぐ思い浮かぶのが焼物の形で、花入れや徳利でお馴染である。しかし、そう呼ばれる陶磁器には茶入れのような首の短いものもあって、必ずしも「長い」という形容を示しているだけではないような気もする。
単純に、鶴の首は頭から胴体まで全部を言うんだよ、と考えればそれはそれで疑問はないが、ならば、“鶴首岬”とは、どんな形をしている、あるいはどんな特徴を持っているのだろう。日立駅前から乗ったタクシーの運転手さんは、しきりに見晴しがよいというかみね公園にある吉田正記念館へ連れて行きたがっていたようだったが、こっちが行きたいのは残念ながらこの岬だけなのだ。
日立の鶴首岬も、なんでここが鶴首なのかは、なかなか納得しにくい。だが、ここへ来てみて、ひとつの仮説が生まれた。
国道6号線のバイパスが、今まさに工事中で、そのループ橋の脇にあるこんもりしたところが鶴首岬である。社があり、浜の宮とも称され、古くは燈明台が設けられていた場所らしい。
そこから海を見ると、わずかに出っ張りの跡も認められるが、どうもこれも自然の地形というよりも、コンクリートなど人工物の残骸のような形跡がある。あるいは戦争中の遺物なのかもしれない。だが、バイパスが全通しても、この浜の宮の森自体が岬の形状を残してくれるのだろう。
海岸線だけを見ても、鶴首らしいところは想像できない。しかし、地図を見ていて気がついたのは、ここが浜の宮というからには、ここはかみね公園の神峰神社とつながっているのではないだろうか、ということだ。
そうであれば、勝手な憶測だが、神社のあるかみね公園の山を本体として、そこからほぼまっすぐ海に続く道を長く突き出た鶴首とすれば、その先に浜の宮がある、という見方もできるのではないか。もっとも、この場合は“首”というよりも“頭”ではないか、という屁理屈も成り立つが。
大みか小学校前から乗った日立電鉄のバスは、常陸多賀を通って245号線からいつの間にか6号線に入り、平和通りの老大木の桜並木を抜けて日立駅前まで向かう。日立駅前には平和町という名の町もある。日立市民が平和への願いを強くしたのは、この町が米軍の艦砲射撃と空襲で壊滅状態になり、多くの犠牲を出したからであろう。
米軍がこの町を標的として狙ったのは、当時ここが有数の軍需工場地帯であったからで、それは日立製作所の発展と歴史の中で、運命づけられたものともいえる。
日立市を歩くのはこれが初めてだが、そのすぐ後に2回目の訪問をしている。その2度目のときに訪れたかみね公園の神峰神社のそば郷土博物館の上には、巨大な頌徳碑が立っており、そこに刻まれていたのはこの日立の町の発展の基をつくった久原房之助と小平浪平二人の名であった。二人の現役時代の終わり頃にその名を知っているのだから、でんでんむしも、結構古い。
もともと、久原が半ば打ち捨てられたようになっていた赤沢の銅山を買い取って日立鉱山を起こしたのは1905(明治38)年で、その後1912(大正元)年に鉱山の電気機械の修理をしていた工作課が小平のもとで独立して日立製作所となる。小平がつくったモーターが、その最初のヒット商品になる。いまでもモーターには定評がある日立だが、桜紅葉のはじまった並木の見える駅前には、大きなタービンの羽車がモニュメントとして置かれているのも、いかにも日立らしい。
“企業城下町”と呼ばれる所は、日本全国に少なくはない。ここは、その代表格のひとつで、どこへいっても日立の工場や会社や施設などがあり、“日立だらけ”である。日立でもいわきでも、ホテルのテレビが全部“HITACHI”だったのにも、ある種の感動さえある。
ただ、「日立」と冠したそれらの全部が、「日立製作所」という一民間企業を発祥とし、それを指しているわけでもない。「日立」は「常陸」という古来からの地名に由来するものであろうが、久原が鉱山の名を“日立”としたのは、もともとそこが日立村であったからであって、それこそが企業名が市の名前になった「豊田市」とは違うところなのだ。
地域や町の名と一企業名が、微妙に入交じっているのが、この町の特色である。そこでその混同を避けるためだろう。地元民は“日立製作所”をいうときには“日製(にっせい)”と呼び、地名をいうときは“日立”と呼んで区別しているらしい。
“スーパーひたち”や“フレッシュひたち”に乗って、この町へやってくるからには、それくらい知っておかないと…。…というほどのことでもないか。
そうそう。これはちょっと書いておかなければ…。
鶴首岬の先端に、大きな石板の碑が立っていた。その写真がこれである。表も裏も、「乃木将軍」以外の文字のすべてが丁寧に削り取られている。これは、いったい…!?
36度35分51.63秒 140度40分15.73秒
関東地方(2007/10/13 訪問)
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