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127 盥岬=賀茂郡南伊豆町湊・下田市田牛(静岡県)読めても書けといわれると書けない漢字 [岬めぐり]

 休暇村でウオーキングのマップをもらったが、それほどわかりにくいむつかしいという道ではない。これまで一度も行ったことのなかった岬までお散歩、とぶらぶら出かけたが、なんとも暑い。強い日差しに肌がジリジリと焼けるような気がする。タオルを頭からかぶり、高級旅館の裏手を抜けて小さなこぶを越えると、弓ケ浜の砂浜とはまったく違う、ゴロタ石が埋め奇岩も屹立する岩場の浜が展開する。その向こうには弁財天岬が見えるが、今向かっているのは手石の港と弓ケ浜をかかえる湾をつくっているその相方ともいうべきもうひとつの岬である。

 階段状に足場がつくられた急な登りを、山の中に入っていくと、登りきったあたりからなかなかみごとなヒメシャラの純林が続く。それを抜けもうひとつこぶを越えたところで岬の雄大な展望が広がる。

 さして広くもないこの岬の上では、なによりも目立つのが、実は“看板”なのである。いささかあたりの調和を乱しているのではないか、とも危惧されるような大きな、いかにもお金のかかっていそうな、でかい看板…というより標識板が、真っ先に目に飛び込んでくる。

 そして、ここで人々は漢字を一字覚えることになる。いまさらいうことでもないが、漢字というのは、なかなかよくできたもので、“両手の間に水をはさんでお皿の上でもんでいる”ような…それが盥(タライ)という漢字なのだ。タライそのものがプラスチックになって、もはや日常のどこにもタライの雰囲気がないような時代になっては、単なる“複雑過ぎる記号”のようにしかならない。これも最近どんどん増え続けている「読めても書けといわれると書けない漢字」のひとつ…。
 …だったが、もうだいじょうぶ。しっかり書けるぞ。

 それはともかく、こんなところにどうしてこんな立派な看板が出現することになったのだろう。岬の先端には、これまた奇妙に白さが目を射る180度展望案内板がぐるりと取り囲んでいる。正面には神子元島、その向こうには新島も神津島も見え、石廊崎も爪木崎も見える。一望する島や岬の名がわかるのは便利といえば便利だが、このどうにもバランスの悪いハデハデしさはいったいなんだろう。
 標識板は、あくまで景色を楽しむためのガイドに過ぎず、それ自体が目立ってはいけない。どうみても、ここでは看板が主役の座を主張しているように見える。

 この岬の出っ張りを境として、南伊豆町と下田市の境界となっているので、これはどちらかの自治体の予算から賄われたものではあるまい。ということは、これはどうやら国の仕業であるらしい。どうも環境省の関連らしいが、いくら予算があって消化しなければならんといっても、もう少し調和というものを考え、環境を大事にしてほしいものだ。
 改めて、ごていねいにも“cape TARAI”と書かれた大きな看板をよくよく見ると、やはり下のほうに小さく「環境省・静岡県」とあった。“省”になったのは確か5〜6年前のことだから、それ以降の比較的新しい仕業である。林の道にチップを敷きつめたり、田牛への道をつけたり、自然環境の中で人が親しむ整備をしてくれるのはいいが、どうも役人のやることには知恵とセンスというものがない。こういう一面的な評価が当を得ていないことは承知のうえだが,情報を持たない一般人からみれば、そういうことになる。
 その左にはやはり小さく、“地元の人達はこの地を「荒神」と言っています”と書かれている。そうするってぇと、「盥岬」というのは、いったい、地元の人ではない誰がどうして、つけた名前なのだろう。それが肝心なことのように思える。まったく、でかい割には情報量のない(確かに「盥」という字は書けるようにはなりましたがね)標識板ではある。

 翌朝、早朝の浜辺を散歩していると、弓ケ浜の朝日は盥岬の上のほうにでる。柄にもないが『浜辺の歌』が、ふと口をついてでてくる。
 “あした浜辺を さまよえば 昔のことぞ 忍ばるる”……大正ロマンのぷんぷんする林古渓の作詞・成田為三作曲のこの歌は、女学生愛唱歌で、今では安田・由紀姉妹くらいしか歌わないが、でんでんむしの好きな歌のひとつであった。中学生になった頃、音楽の時間に、先生が突然にこういった。「わたしがピアノで伴奏しますから、出席簿の順に一人ずつ前に出て好きな歌を歌ってください」。今の香川京子みたいなその音楽の先生は、常勤ではなく数校を掛け持ちしていたようだった。そのときに選んでしまったのが、この『浜辺の歌』だった。
 だが、音域の高いこの歌は、いくら中学生でも男には無理な選曲だった。途中まではうまく歌えていたと思った。そのとき、ピアノを弾いていた先生が、ちらりとこっちの顔を見るのが目に入った。そのとたん、声が裏返ってやはり転調?してしまった。
 そんな、昔のことも忍ばるる、朝の浜辺であった。

▼国土地理院 「地理院地図」
34度37分46.36秒 138度54分17.02秒
127たらいみさき-27.jpg
dendenmushi.gif東海地方(2007/06/08 訪問)

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タグ:静岡県
きた!みた!印(3)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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コメント 2

綺麗な景色ですね。
西伊豆にこんな場所があったとは知らなかった。
by (2007-07-10 22:32) 

dendenmushi

@julieさん、ありがとうございます。日本にはきれいな景色は、まだまだたくさんあるんだと、みんな思っていますよね。
写真は、あまり考えずに撮っているのですが…。
by dendenmushi (2007-07-11 06:14) 

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